第13話 「迎えるべき日常」
アルウェルでの旅行2日目は、とてもスムーズに動いた。朝食は旅館渾身の振る舞いで大量に料理が振舞われた。………昼ご飯を抜く程度には、大量に。
2人は分け合いっこしながら食べ進め、なんとか食べることができた。
「す、すごいよあれ…人が食べれる量じゃない…」
「レロときててよかった…あんなの1人じゃ…うぷっ」
「吐くのか!?えええええエチケットに出せよ!?」
そう言ってレロスは慌ててエチケット袋をリーナスの口元に差し出し誘導する。案の定戻してしまうが、リーナスはそのあとどこか元気だったそうだ。
おそらく限界まで詰め込みすぎたのだろう。ちなみのレロスも限界であった。彼も内心「うえっ吐きそうゲロ出そうやべえ死にそう」とか思いつつもなんとか耐えていた。
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「この団子美味しいね」
「うん、この団子は美味しい…いちゅまでも食べられふぁうね」
そう言ってレロスは頬張りながら喋る。
彼らが訪れたのはアルウェルで忘れてはいけない食事スポットである菓子屋だった。レロスの故郷でいう「和菓子」やその他数多くの菓子がカウンタ下のケースに並べられていた。どれも美味しそうで涎が垂れていたところ、ふと目についた団子を勢いで購入し、食べ始め現在に至る。
「これ食べてみてよ。はい、あーん」
「うえっ!?あーん?!」
「うん。早く〜食べてよ〜」
「ええ、それじゃあ………あーん」
「あーんと見せかけてぱくりっ」
「………えっ」
リーナスは団子を差し出すかと思いきやそれを自分で食べてしまった。レロスはびっくりして言葉すら出なかった。改めてレロスは考える。「これ側から見ればただのバカップルでは?」と。無論的中である。
通りかかった人から微笑ましい目線を向けられ続けているのだ。この目線からは避けられようがない。避けようものなら………。
「レロス、どこいくの?私をおいてどこいくの?ねえ。ねえってば。話聞いてる?ねえ。私をみてよ」
リーナスが病み始めるだろう。なのであまり迂闊な行動に移せなかったがそれは誤解である。超誤解である。
実際はリーナスが関わり方を見直すだけで、病むなんてことはない。
「あと一泊か…何するよ?」
「えー、そうだなあ…何かしたいことはないの?」
「特に何も。強いて言うなら一緒にいたい、かな」
2人は一応想いは通じ合っているが、正式には通じ合っていない。事実上通じ合っている、と断定しているだけである。
なのでリーナスは最初こそこれが偽りで自分自身に付き合ってくれていると考えて普段以上に不安を感じていたが、ここ数日間のレロスの様子を見てそれはないと判断した。むしろそうであった場合は極めてまずい。
ここまでスキンシップを多めにしていることが逆効果だったら?これが彼の重荷だったら?そう考え、実際にそうだった時、自分はどうすれば良いのかわからなかった。
「そ。なら一緒に居てあげる」
「ツンツンしたりデレデレしたり仁王左往するなあ」
………全くもってそうである。
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魔王軍穏健派はアジトで念入りな作戦準備を開始していた。ありったけの魔法陣、ありったけの武器や防具、治癒用具などなど。数多くの対策を開始していた。
「これだけあればあの『色欲』も圧倒したりな」
「本当だな。あの異世界人の手を借りるまでもない」
「おい、何を話している!」
魔王軍穏健派の下っ端がそうやって「異世界人」について触れたタイミングでウヌクがその空間に介入した。
「ウ、ウヌク様!!これは…違いまして!」
「何が違うんだ。彼らは忙しい中であるにもかかわらず、我々…いや、王都のために手を貸してくれる。この前だって2人して『色欲』との戦闘でなんとか耐え抜いた。そんな彼らの善意を踏みにじることはできない」
「う…それはまあ、確かにそうです…ですけど、信用なりません!」
「信用ならないのは確かだ。が、我々が彼らに期待しているのもまた事実……全く難しいことだ」
ウヌクはそう語るが内面は酷く混乱していた。
まずレロスが会話が成立しないほどには闇属性に侵されていたこと。話しかけても普段のように反応を返してはくれなかった。
リーナスも大怪我だったが、奇跡的に全回復した。傷跡も目立つことなく復帰できたのは良かったことだったが、彼女のショッキングな姿をレロスが見てしまったことで、全ては崩れ去ったとも言えてしまうだろう。
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アルウェルの温泉へと足を運んだレロスとリーナスは、露天風呂を満喫することに。
「なんて気持ちいい風呂…王都にもこれくらいのがあればなあ」
レロスはそうやって願望を口から溢す。王都には温泉というものが全くない。というのも、まずまず温泉が湧いていないこと、それと温泉を楽しむという文化自体が王都では薄れているためだ。その面レロスは他人から見れば変な人、らしい。
「レロ〜?入っていい?」
「へ?入る?女風呂があるって話じゃないのか?」
「いやなんか、ないらしいの」
「ええ…?そんなことがあっていいのかよ…」
「待ってても仕方ないから入るね?」
「えちょっまっ、て」
レロスは止めることはできなかったが、その美貌に見惚れてしまった。
レロスは「やっぱりリーナスって超がつくくらい美人だよな」と内心思いながらすぐにそっぽを向いた。
「…よいしょ、あ、程よい水温だね」
「…………。」
「………何黙り込んでんのさ!!!」
「ぶふぇええええええ!!!」
急に頭を水面に押し付けられたので、とんでもない声を出してしまった。
───レロスは溺れ死にかけた。
「やめてくれよ、全く…」
「はい、ごめんなさい…」
「…仕方ないし許してあげよう」
「やった!レロス大好き!!!」
レロスにリーナスがくっつく。結構キツめに密着するので感覚でわかる。これ以上やったら自分が耐え切れるかわからないと。
「リーナス…!!ちょっと離れて…!!」
「えーいいでしょー?どうせ私のこと好きなくせになーに強がっちゃってるの!」
「だから、タオルがはだけてあられもない姿がさ…見えるでしょうがっ…!」
「え?別にレロスになら見られてもいいけど?」
「は!????!?!?!???!!?!ダメだろ!!」
「なんなら見せてあげようか?」
「見ない!!!!ぜっっっっっったいに、み、な、い!!!」
「ちぇーっ」
リーナスはどこか不機嫌そうにそう溢す。しかしレロスの顔を覗いてみる。彼は酷く赤面していた。ちょっとやりすぎたかもしれない。
「リーのことは…好き…好きだけど今はそのタイミングじゃないから……!」
「え、うん。別にいつまでも待つよ」
「だから…ね。今はその時じゃない」
そう言ってレロスはリーナスをおいて足早に風呂を上がっていくのだった。
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レロスとリーナスは再び馬車に揺られていた。
道中盗賊に会うなんてこともなく、平和に移動することができた。
ちなみに往復代は払えなかった。またしても断られたのだ。レロスは降りる前にフードをかぶって足早に門をくぐり、王都へと帰還した。どこか闇を抱えたような雰囲気がして、リーナスは少しだけ不安に感じた。
レロスたちが不在の間、王都ではあらゆる面々が動きを見せ、来る魔王軍戦に向けて各々が各々なりのやり方で対策を講じていたのだった。




