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アンジェイ・ピャストの告白④


 それから数ヶ月の間、アリスの日々は穏やかで幸福だった。

 秘密が作っていた壁を取り払ったアンジェイは、文句のつけようがないほど優しく情熱的な恋人だった。

 革命を起こさなくても、もちろんヒュペルオイアス帝国の皇帝にならなくても、身分という障害は取り除くことができるだろうと、アリスは楽観していた。

「お父様は、私たちが正式に結婚することはできなくても、二人の間にできた子を養子としてイース家に迎え、イース家を継がせてやることはできるとおっしゃっていたわ」

「旦那様が……?」

「アンジェイがそんなやり方は嫌だというのなら、いっそ駆け落ちするのはどう?」

「駆け落ち?」

「そう。故国も家も家族も友人も捨てて、二人で身分のない国に行くの」

「大恩ある旦那様にそんな不義理なことはできない」

「私、今よりずっと幼い頃から、アンジェイとの駆け落ちを夢見ていたのよ。でも、お父様を一人残して、この家を出るわけにはいかないと思っていた。けれど、お父様とお母様が和解した今なら――」

「アリスらしい突飛な解決法だ」

「革命的でしょう? それでいながら、アンジェイがヒュペルオイアス帝国の皇帝になるより、ずっとたやすい」

「そんなやり方で――君に何かを捨てさせて、君を手に入れることはしたくないな、アリス」

 アンジェイと交わすそんなやりとりを、アリスは幸福な恋人同士の甘い睦言だと思っていたのだ。



 まさか、次の春が巡ってくるなり、アンジェイが突然イース伯爵家から姿を消してしまうとは。

 それから一ヶ月も経たぬうちに、ヒュペルオイアス帝国の独立を求めて、二万以上のヒュペルオイアス州駐留のフランコルム王国軍兵を率いて王都に進軍して来ようとは。

 そんな事態は、アリスには全くの想定外。想像したことすらない事態だった。

 王城正門前で王国軍と反乱軍が対峙する中、アンジェイが帝国復興を望まない二人のヒュペルオイアス帝国人の青年によって、命を奪われる事態はなおさら。

 大義名分のない無謀な蜂起、成り行き任せの数万の兵の進軍、意思統一が図られているとは言い難い軍組織、反対勢力への対処も考えられていない杜撰な計画。

 それは、配慮不足、検討不足、見落としだらけ、欠陥だらけの、最もアンジェイらしくない武装蜂起だった。

 たとえ、アリスに何も失わせずに、二人が結ばれるための一世一代の賭けであったとしても。



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