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強く賢く超絶美形 ―私のスパダリ侍衛に欠けているのは身分だけだったのですが  作者: 川瀬えいみ
第八章 ヒュペルオイアス帝国の拉致監禁犯たちとの対決
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ヒュペルオイアス帝国の拉致監禁犯たちとの対決①


 アンジェイと一緒にいるためなら何でもした。

 あれは、私がまだ十二か十三歳の頃。

 暴漢に襲われた時の対処法を教えてとアンジェイにねだったのも、剣術や体術を覚えたいからじゃなく、アンジェイがそれらを学ぶ時間も彼と一緒にいたいからだった。

「アリスは何もしなくていいんだよ。守ってくれるアンジェイの邪魔になりさえしなければ」

 と渋るお父様には、

「私には、アンジェイの邪魔にならない立ち居振舞いを心得ておく必要があるでしょう!」

 と口答えした。

 私がお父様の許可をもぎ取ると、アンジェイは生真面目に、護身のためのあれこれを私に教えてくれた。

「アリスは、長剣より短剣で、襲ってくる相手に隙を作らせ、その隙を突く方法を覚えた方がいい。長いスカートは、それだけで動きと速さを制限するから。とにかく我が身を守ることだけを考えて――」

「私も暴漢を倒したい」

「駄目だ。……暴漢が後ろから来たら、身を沈める。正面から来たら、後ろに下がらず前に出る」

「横から来たら?」

「そういうことは滅多にないんだが、最初の一撃で急所を突かれることはないから、安易に暴漢の方に身体の向きを変えないことだけ念頭に置けばいい。利き腕側と反対側で対処方法が違う」

「上から来たら?」

「アリスの発想は、相変わらず突飛だな。その場合はまず頭を庇え」

「手で?」

「手近に何もなかったら、そうなる。大丈夫だ。アリスの手が傷付けられる前に、私が敵を撃退するから」

 アンジェイが確信に満ちてそう言ってくれるのが嬉しかった。それで、浮かれてアンジェイに勝負を挑んだのよ。

「ねえ、アンジェイ。私がアンジェイを取り押さえることができたら、ご褒美をちょうだい」って。

 アンジェイに勝つのは簡単だった。私はアンジェイの動きを封じようなんて毫も考えず、その懐に飛び込んで、アンジェイの唇にキスしてやったの。そうして、勝ち誇ってアンジェイに告げた。

「はい。私の勝ち」

「アリス」

「アンジェイは、戦意を感じさせない相手には隙だらけ」

「……いい勉強になった」

「なら、よかった」

「ご褒美は? 何がほしいんだ」

「もうもらった」

「アリス。悪ふざけは……」

 アンジェイは困ってた。喜んでなかったし、嬉しそうでもなかった。

 私はそんなアンジェイの様子が悲しかったけど、まさか泣くわけにもいかなくて―― 一生懸命、言い訳を考えたのよ。

「私の初めてのキスの相手がアンジェイ以外の誰かだったら、多分、国中の人が納得しないわよ」

「そんな理由で」

「相手がアンジェイでも納得しない人はいるでしょうけど、それは相手が誰でも納得しない人でしょうね」なんて。


 ――違う。

 あの時、私は、本当は、アンジェイが私以外の誰かにキスするのはいやだと言いたかったんだ。アンジェイを誰かに取られたくなかった。

 いつも積極的だったのは私。私の方。私だけだった。

 アンジェイが私のためだけに生きていること、少なくとも私以上に他の誰かのために生きていないってことは確信できてる。

 なのに、いつも、二人の間には壁があった。透明な風でできているような見えない壁が。

 ずっと、その壁の正体を身分の違いだと思っていたけれど、そうじゃなかったのかもしれない。アンジェイの生まれを知った今は、特にそう思える。

 アンジェイはヒュペルオイアス帝国の第一血統親王だった。前皇帝亡き今、帝国のトップも同然。しかも三重天寵の受者。

 考えようによっては、アンジェイは、フランコルム王国の国王より高貴な存在だ。

 尋常でないアンジェイの出自を証言する者もいる。オクシタニス大公国のロジェ大公世子、ヒュペルオイアス帝国の旧臣たち。

 アンジェイの高貴な生まれは、ヒュペルオイアス帝国が滅んだ今では諸刃の剣だけど。三重天寵の力だって、危険視されないとも限らない。

 でも、アンジェイには並外れた知略と胆力もある。政治力、外交力、男も女も言いなりにできるあの不思議な力を駆使して、三重天寵のはったりを利かせれば、ヒュペルオイアス帝国の皇帝位は無理でも、平民のままヒュペルオイアスの州知事になって叙爵されるくらいのことは、さほど難しいことじゃないような気がする。

 なのに、アンジェイはそうしようとしない。どうしてそうしてくれないんだろう?

 もし、そうしてくれたら――。



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