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イース伯爵邸の子守歌と恋歌⑤


「もう一通は――」

 記憶にない封蝋印。送り主は、ラシャリエ子爵令嬢アマビリス・ドゥ・ラシャリエ。ティーパーティーへの招待状だった。

「誰?」

 と声に出してから、ベニエ商会の跡取り息子の恋人がリリアーナ・ドゥ・ラシャリエだったことを思い出す。

 アリスの助力で婚約した二人は、余計な横やりを避けるため、あのあと大急ぎで結婚した。アリスは丁寧なお礼状を受け取っていた。確か、リリアーナ嬢には妹がいたはずで――。

 が、そんな記憶はどうでもよかった。おそらくリリアーナ嬢の親族なのだろうアマビリス・ドゥ・ラシャリエからの招待状には、

「アンジェイ様に関する聞き捨てならない噂を聞きました。念のため、アリス様のお耳に入れたいので、お一人で、いつでも、拙宅をご訪問ください」

 と記されていたのだ。

『お一人で』『いつでも』――貴族の家への招待状としてはマナー違反の極致。むしろ、禁忌といっていい文言である。

 何か危急の事態が起こったのだと、アリスは察した。

 それでも、いつものアリスだったなら、アンジェイを伴っていただろう。少なくとも、アンジェイにこの件を報告し、対応を相談したはずだった。

 だが、時と場合が悪かったのである。

 時が“あんなキス”の直後で、用件が『アンジェイに関する聞き捨てならない噂』。

 アリスは乗馬服に着替え、アンジェイに気付かれぬようこっそり馬を引き出した。

 そして、一人で、ラシャリエ子爵邸に向かったのである。



 前触れも出さない突然の訪問だったのだが、アマビリス・ドゥ・ラシャリエは訪問客の無礼を責めもせず、今にも泣きすがらんばかりの様相で、アリスを邸内に招き入れてくれた。

「申し訳ございません、アリスタクセンシア様。母と弟を人質に取られて、私はこうするしか――」

「は?」

 思ってもいなかった挨拶に、アリスが目を見開く。

 アマビリス嬢の背後に、若い男が二人、立っていた。

 年の頃はアンジェイと同年代。身なりは平民の商人のそれ。

「はじめまして。第三代イース伯爵令嬢にして初代コルヌアイユ侯爵令嬢アリスタクセンシア殿」

 薄茶色の髪の男は、

「ヒュペルオイアス帝国、元内務大臣ヤロスラフ・ヴァーサリの一子ミロシュ・ヴァーサリ」

 赤褐色の髪の男は、

「ヒュペルオイアス帝国、元侍従長オレーグ・フォルクの一子ハラート・フォルク」

 と名乗った。

 二人とも、優しく上品とは言い難い笑みを、目元にだけ浮かべていた。



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