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レブリエ男爵邸の密談③


 コルヌアイユ侯爵領視察の旅の最初の宿泊先のショードロン男爵邸で、アリスたち一行は下にも置かぬもてなしを受けた。

 ショードロン男爵がアリスの祖父に抱いている恩義と尊敬の念は相当深いもののようだった。

 幸か不幸か、ショードロン男爵家にいる独身者は、男爵の孫の十歳になったばかりの男女の双子だけで、男爵にはそちら方面の野心はないらしく、そのためアリスは非常に快適な一夜を過ごすことができた。

 王都で噂のイース伯爵令嬢主従に見惚れて、練習通りの挨拶に失敗した双子に微笑み、その可愛らしさを褒めてやる。

 それだけで、男爵は、自分には過ぎた栄誉と恐縮しきりだった。

 が、二泊目のレブリエ男爵邸の夜は、そんな微笑ましいことにはならなかったのである。

 レブリエ男爵も、先代イース伯爵に恩義を感じているのは、ショードロン男爵と同じなのだろう。だが、その感謝の表現方法が二人は全く異なっていた。

 これからコルヌアイユ侯爵領の経営を始めるイース伯爵のために、レブリエ男爵は、地域の有力者たちを夕食会に招いてくれていたのだ。

 招待客の中に、ヤロスラフ・ヴァーサリ、オレーグ・フォルクという五十絡みの男たちがいて、彼等が、平民でありながら、レブリエ男爵に対してもアリスの父に対しても、妙に権高な態度を示すのが、アリスは気になった。

(何かしら……。所作や言葉が乱暴なわけじゃないのに、人を蔑んでいるような目……)

 その目で、値踏みするように、やたらとアリスを見てくる。夕食のテーブルで、アリスは居心地が悪くて仕方がなかった。

(アンジェイと一緒だったら、誰も私をあんな目で見ることはしないでしょうに……)

 こういう時に、アンジェイが一緒でないと自分の存在感が半減することを実感する。だが、宿を借りる側の身で、正餐の席に使用人の同席を求めることは、さすがのアリスにもできなかったのだ。

 レブリエ男爵家の身内に未婚男性がいない事実に感謝することで、居心地の悪い夕食会を、アリスは何とか耐え抜いた。


 ヴァーサリとフォルクは商人だった。商品を売買する商人ではなく、物流専門の。人間、馬、各種馬車、時には飼い慣らした鳥を使って、ヒュペルオイアス州やレブリエ男爵領、フランコルム王国の王都ベルズ、その属国や植民地等に拠点を置き、物品、人、情報や手形などを、広く流通させているらしい。

 コルヌアイユ侯爵領に新しい拠点を設けるために、アリスの父の許可を取りつけることが、彼等の目的のようだった。

 その計画は、父にとっても、コルヌアイユ侯爵領の発展という点でも悪いことではない。

 そう思うから、会食中も、その後のお茶の席でも、アリスは懸命に笑顔を維持していた。

 そういう状況だったので、招待客全員がレブリエ男爵邸を辞するまでずっと、アリスは頬の筋肉を緩めることができなかったのである。

 夜気に触れて頭と頬の筋肉を冷やしてからでないと眠れそうにないと考えて、アリスは、就寝前に、客用寝室のテラスから庭に出た。

 まだ花を残している小手毬の木と、今が花の盛りの大手毬の木が植えられている庭。小さな花が集まって作る白い花模様の毬が、常夜灯代わりに庭を照らしている。

 そこで、アリスは、聞き慣れた声と、繰り返し聞くことが不快に感じられる声が、夜気の中に混じり流れていることに気付いたのである。

 声は厩舎の方から流れてきていた。

 聞き慣れた声はアンジェイのもので、不快な声は二人の物流商のものだった。



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