新米魔女は戦えない
「——というわけで、あなたを倒すためにひとり乗り込んできたわけですが!」
夕陽が沈みきった頃。
足首までの丈のフリルがたっぷりあしらったスカートをふわりと翻し、淡いクリーム色の癖っ毛をなびかせながらひとり魔王城に乗り込んだその少女は、城の最奥から強大な魔力量を探知した。緊張感で汗の滲む手をぎゅっと握りしめてから、絢爛な扉を力いっぱい押し開く。
部屋の奥で鎮座する気怠げな様子の男の前に堂々立ち、華奢な身体で精一杯声を張り上げた。灯りの少ない薄暗い城内はとてつもない広さで、少女の声だけがあたりに凛と響き渡った。
「また……新たな犠牲者か」
血の気のない蒼白い肌とは対照的な紅く鋭い眼光は、相手を震え上がらせるには充分なほどで、更には他を圧倒する魔力量を誇るその男——魔王は、豪奢な椅子に長い足を組んで腰掛けたまま薄らと嘲笑を浮かべていた。だがそこに特別な感情はなく、眼前の少女の挙動をただ静観するのみ。
少女は何もない空間から身の丈を超える立派な杖を出現させると、魔王にその矛先を向ける。
杖は魔女や魔法使いにとって強さを表す象徴であり、杖が大きく立派であればあるほど、持ち主の強さを体現するものであった。
「お手並み拝見といこう」
どのような攻撃でも当たらない確信があった魔王は、その場から一歩も動かない。しかし目の前の魔女が更に一歩前へと踏み出したその瞬間、不意に不思議な魔力を感じた。しかしその魔力量はさして変化はない。
魔王は気に止めなかったが、次に飛び出す少女の発言内容までは予測不可能だった。
「わたし、魔法使えません!」
「——」
魔王は絶句した。
ならば何故ここに来たのだ、と言葉にすることもできないほどに。
むんっ、と何故か胸を張る少女を謎の生き物でも見るような目を向ける魔王だったが、暫くの沈黙ののち考察することを諦めた。
「……、その手にあるものはなんだ」
魔王は自身に向けられた大杖を指摘する。
それは魔法を放つために使うものだ。まさかただの飾りではないだろう。
しかも彼女の杖は稀に見る立派なものだ。魔女や魔法使いの杖は、彼らの魔力量に見合った大きさになりやすい。
「あっ、これですか? えーっと、お花が出せるんです。ほら!」
少女が碧く澄んだ瞳をいっそう煌めかせる。
ポンッ、ポポン、と軽く振られた大杖から色とりどりの花が飛び出す。それはふわふわと舞い上がり、殺風景な魔王城の一室をあっという間にファンシーな様相に変貌させた。
「………………、は?」
さすがの魔王も呆気に取られ、少女を信じられないものを見る目で見つめた。




