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5話 解散組曲

 本番の一週間前、スタジオリハーサルが行われた。衣装を着て最初から最後まで通した後、詳細な確認をする。


 今回は初披露曲が五つあって、アンコールではファイナルライブの告知をする。

 新曲のうち一曲はシングル発売済みの未熟シンデレラだが、残り四曲は最後のアルバムに収録予定の曲。アルバムは来月発売のため、本当の意味での初公開となる。


 この四曲は私たちについてかなり直球に歌っていて、曲をもらったときは驚いた。

 一曲目「夕暮れの原石」は私たちがジュエリーピースになるまでを描いている。二曲目「箱庭にて」で批判に苦しみながら、それでも応援してくれる人の優しさを噛み締める。三曲目「私たちのProve」では解散が決まってからの心境を歌う。そして四曲目。「Endless Jewelry World」は、切ないけど明るい別れの曲。私たちの花道を希望にあふれた歌詞が飾る。

 なかでも難しいのは三曲目の私たちのProveだった。解散を悲しみ、解散するにあたって私たちのやってきたことは無駄じゃなかったと証明する。深い哀情の中に宿る、強さとたくましさ。それでいて繊細で美しい。独特の世界観を持っていた。


「この起承転結にもなっている組曲は、箱庭とProveが特に難しかったでしょう。この二つで逆境や苦悩に触れることで、次のEndlessがより輝く。それをしっかり形にできていました。しかし、歌い方についてもう少し言うならば……」

 歌の先生は一度区切り、全員を見渡してから続けた。

「Proveの一番について、皆さんへの指示を覚えていますか?」

「はい」

 私たち五人の声が重なる。この曲の一番は、メンバーそれぞれが違うディレクションを受けていた。紗英は「精一杯の強がりを見せて」、亜希は「ガラスのように鋭く」、芽衣は「優しく慰めるように」、唯夏は「感情を消して」。私は「不安をさらけ出して」だった。一番の歌詞は痛みがメインとなっている。全体的に暗く、でも全部が暗いと陰鬱な雰囲気になるから、虚勢であっても強さや慰めの感情も入れる。二番からは悲しみと不安が本物の強さに変わっていく。絶望の中に希望を見出す過程。それを歌い方で表現しなければならない。


「おのおの表現できていたと思います。ですが、お客さんの前でもこの歌い方を保てるか若干の不安がありますので、そこが課題かなと。私からは以上です」

 ダンスの先生からの講評へ移ろうとすると、唯夏が声を上げた。

「あの。前から聞きたかったのですが、どうして私は無感情なんですか? 何を伝えたいのか、どう歌えばいいのかはわかっています。ただ、他のみんなと比べてシンプルだったので気になって」

「唯夏さんは普段、とても感情を込めた歌い方をしますよね。まるで役を演じるように。それは武器でもありますが、ここではあえて出さないでもらいたかったんです。一番では解散という事実を客観視してほしくて。ああ、二番からは主観でお願いしますね」

「わかりました。客観と主観……。きちんと意識して歌います。ありがとうございます」

 唯夏は曲でも役に入り込むタイプだ。感情の入れ方の強い唯夏が、主観のまま一番を歌えばどうなるか。暗くなりすぎてバランスが悪くなる。唯夏の主観に寄りすぎている面と感情過多なところは、声優経験の多さからなのかな。


「さて、組曲のダンスですが」

 ダンスの先生が口を開く。

「私から見た問題点はありませんでした。あと一週間で伸ばせるところは伸ばして、この調子で本番を迎えましょう。 Endlessの振りが本当にいい仕上がりなので、披露が楽しみです。お客さんを驚かせましょう」

 厳しめな先生が褒めてくれた。Endless Jewelry World にはこれまでの振り付けが入っている。ファンのみんなも喜んでくれるはず。

「はいっ。ありがとうございます」

 難関だった組曲の確認も済ませた。あとは本番に向けてより精度を上げていくだけ。解散発表後、初めてのライブ。そしてファイナルライブ発表の場。緊張がありつつも、私たちのコンディションは整っていた。


 長時間におよぶリハを終えても、唯夏にはまだ次の現場がある。動画サイトで生配信される出演作のトーク番組が。


 唯夏を車で送迎するはずのマネージャーが控室に戻ってきた。唯夏ならもう出ていったのにと思ったが、私たち四人に用があったらしい。

「引退の件、この公演後に打ち明けるという意志に変わりはないか?」

 亜希と芽衣の話は、マネージャーと身近なスタッフさん、事務所の上層部には伝わっていた。唯夏が取り乱す心配をしているのは私たちだけじゃない。引退する当人たちより唯夏を気にかける現状は、はたから見ればおかしいかもしれないけど。

「はい。年が明ける前には言うつもりです。私たちでなんとかします」

 亜希がはっきりと返す。

「ご迷惑をおかけしますが、それまで待っていてください」

 芽衣も迷いなくマネージャーを見つめる。

「一月まで引きずるんじゃないかと心配だったんだ。杞憂に終わりそうで良かった」

 言うだけ言って足早に去っていくマネージャーを見送った。

 引退はまだ正式決定ではない。諸々の手続きがあるから、今の段階では「引退相談中」ということになっている。目処がつき決定するのは一月に入ってから。決まったらなるべく早く、神奈川公演より前に公表という流れ。年内には唯夏に伝えないとまずい。


「打ち明ける場所、変えた方がいいかな」

 紗英の言わんとすることはわかる。この控室で話すつもりだけど、スタッフさんや周りの人に心配をかけてしまう可能性がある。

「確かにスタジオ内だと人の出入りがあるし、今みたいに私たちだけでいられるとも限らない。外に出る?」

「外は人目についちゃう。唯夏、泣くかもなのに」

 亜希の意見に芽衣が反対した。屋内外問わず人の目に触れる場所は良くない。かといって、誰かの自宅や完全個室のお店も問題があった。家やご飯に誘っておいて、揉めるであろう話をするのは勇気がいる。唯夏からしても上げて落とされる気分だろう。大切な話があると伝えてから連れ出しても、逆に切り出しにくくなりそう。結局、他にいい選択肢がなかった。


「私は他の場所よりはここがいいと思う。スタッフさんに気を遣わせてしまっても、それは仕方ないというか……。亜希と芽衣が変えたいと言うなら止めないけど」

私に対して、三人は代案を出そうとしていたようだけど、

「消去法ではあるけど、それしかないのかな」

 最初に降参の声を上げたのは芽衣だった。

「そうだね……。ここで穏便に済ませるしかないか」

 亜希の言葉からは覚悟を感じた。場所の問題だけじゃなく、伝えるんだという決意を。

「じゃあ、予定通りということで。あまり気負わずにね」

 紗英は二人に、そして私にも確かめるように視線をやる。

 どうなるかはそのときまでわからないけれど、今はただ上手くいくようにと願った。


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