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056話 【前の世界線】トモリン、帝国のやり方に憤慨する

 帝国歴301年6月。

 授業を終えた放課後。


「最近、ダミアンを見かけなくなったな」


「チャラ男、絡んで来なくなったからねー。いないことに全然気づかなかったよ」


 既に空気扱いにされていたダミアン。


「ダミアンは、噴火の被害に遭った町の修復作業に行っている」


 エマはダミアンの情報をいち早くキャッチしていた。


「へー。あんな奴でも、町の民の手助けをするんだな!」


 感心したというより、珍しい物でもみつけたかのように話すミーサ。


「実は、モンバートの町で、物資が不足している。トモリン、運ぶのを手伝って欲しい」


「仕返しは、もういいのか?」


「仕返し?」


 モンバートの町周辺の物資の値段を釣り上げ、さらに輸送を滞らせていたのがエマの実家だと気づいているミーサと、首を傾げてまったく感づきもしないトモリン。


「ダミアンへのお仕置きは、もう、十分した。それで住民を巻き込んだのは悪かったと思う。だから、今まで止めていた分を無償で配布する」


 エマは眉根を寄せ、申し訳なさそうに話す。


「うっひゃー! 私にも分けてくれよ!」


「ミーサも物資の枯渇を味わいたい?」


 枯渇した分を提供するのだから、最初に枯渇しないといけない。エマはそう主張する。


「いや、もう、十分枯渇してるし!」


 既に貧乏が身に染みているミーサだった。


「ミーサはまだ甘い。もっと枯渇しないとダメ。ミーサの家に行く品物の値段を上げるには、あーして、こうやって……」


「い、いやいやいや! 手を回さなくていいから!」


 エマの目が光り、ミーサは慌てて手を前に出して振って断った。


「それで、トモリンにはウチに来て物資をポーチに入れて運んで欲しい。それから、ココナを呼んでモンバートの町まで転移する」


「うん、わかったよ! エマちゃんのおうちに遊びに行けばいいんだね! どんなお家かな、ワクワクするね!」


 トモリンのポーチは、エマのものよりもよっぽど多く物が入る。

 今日はトモリン運送のデビューの日となりそうだ。


 三人は平民街にあるエマの実家へと向かった。


「これがエマの家かあ。でかいなあ」


 下級貴族であるミーサの家よりも大きい。


「ブランド品も手掛けているから、例え家であっても、上品そうに見えないと、イメージが悪くなる」


 隣の敷地もエマの家のもので、そこには大きな倉庫が三棟建っている。


「あっちの倉庫で、物資を詰める」


 倉庫のある敷地に行くと、四人の門衛が入り口で厳しくチェック……かと思いきや、「エマお嬢様、どうぞお通りください!」と顔パスだった。


 三棟ある倉庫のうちの手前の倉庫に入る。

 内部は四階建てになっていて、階段はなく、建物の内壁に沿うように緩やかな傾斜の通路がぐるりと螺旋状に繋がっており、それで階上階下への移動を行う仕組みになっている。


「この階層では水とテーブル」


 テーブル数脚と、樽に入った水を、トモリンのポーチに収めて行く。いくつかワインも含まれている。


「もう十樽以上入れたよな? まだ入るのか?」


「入ると思うよ?」


 自身のポーチの上限がどれだけか知らないトモリン。

 その場にある物をすべて入れると、一つ上の階層に上がる。


「ここではパンと干し肉」


 ポンポンと、どれだけでも入って行くパンや干し肉。


「野菜の塩漬けを追加する」


 余裕そうなので、追加オーダーを入れるエマ。


 さらに上の階層に上がる。


「ここでは衣類とタオル、毛布、石鹸、小皿、トレイ。ここの物なら、ボクのポーチに入るから、トモリンは大き目な物を入れたら一番下の階層に戻って、果物を入れて」


 エマがポーチに入れている間に、トモリンとミーサはいくつか大きな物を収納し、通路を下って一番下の階層に戻る。


「わあ! 果物だ! どれにしようかな……」


「そんなの、手当たり次第に入れればいいさ」


 スイカっぽいもの、マンゴーっぽいもの、さくらんぼみたいなもの……。形振なりふり構わず一気に詰め込む。


「全部入っちゃったね。よかったのかな?」


「しまった! 一個ぐらい味見をしておくんだった!」


 二人が労働を終えると、エマが下りてきた。


「全部、詰め込んだ?」


「バッチリ入ったよ!」


 果物の収納が終わっているのを確認すると、三人は倉庫の敷地から外に出た。


「トモリン、ココナを呼んで」


「うん、呼ぶよー。ココナちゃん、おいで~」


『トモリン、呼んだコン?』


 ぽんっとトモリンの肩の上に現れたココナ。


「えっとね、モンバートの町に連れてって!」


『おけー。モンバートの町に、行っくコーン!』


 ココナがぴょんと飛び跳ねると、三人はモンバートの町の入り口の近くに立っていた。


 いざ、門をくぐろうとすると。


「入町税は金貨一枚だ」


「高っ!」


 門衛からド高めな入町税を要求された。


「今は仕方ない、払う。こんなことをしているから、ダミアンみたいのが育つ」


 エマが三人分の入町税を支払い、町に入る。


 少し進むと中央広場があり、そこには避難民らしき人たちがいる。


「ダミアンの家に任せると、うまく行き渡らないと思う。だから、ボクたちで配る」


 その予想は当たっていて、ダミアンの家に物資を渡せば、ブルクハルトは半分以上を自身の備蓄に充てることであろう。下手をすると、すべてを備蓄に回すかもしれない。


 トモリンが水の入った樽を、でーんと取り出す。そして、その前にテーブルをいくつも並べ、干し肉やパンを並べて行く。

 エマはテーブルの上に木皿を重ねて置き、さらに他のテーブルには衣類などを並べる。

 ミーサは地面に大きな布を敷き、その上に果物を並べて行く。


「全部、並んだ?」


「待ち切れなそうだから、早く解放しようぜ」


 周辺を取り囲むように集まって、飢えた顔で三人の作業を見つめる避難民たち。

 盗むと町から追放になるので、物欲しそうな顔で眺めているのだ。


「えっとね。並ばないとダメだよ」


 変なところで前世の知識が発動するトモリン。


「そっか、そうだよな。一斉に来たら取り合いになるよな」


「それなら、一方通行で並んでもらう」


「並ばせるんだな? 任せろ!」


 ミーサが民衆の前に立ち指示を出す。


「これはカーペン家からの無償の援助物資だ。しかし! 並ばない奴には渡さない! 欲しい奴は一列に並べ!」


 民衆は並んだことなどないので、顔を見合わせる。

 そして、一人が前に出ると、その後ろへと続々と並び出した。


「おい! そこ! 割り込む奴には渡さないぞ! 後ろに並べ!」


 並ぶことに慣れていない民衆は、我先にと割り込みする者もいて、それをミーサが取り締まる。


「えっと、木皿に水を入れて、トレイにパンを載せて……」


「服は、汎用品を持ってきたから、サイズの合うのを持って行って」


 トモリンとエマが仮初の配給を始めた。


 半日くらい、配給係を務め、


「これ、ボクたちだけじゃ、無理」


「ここの避難民の人たちにやってもらおうよ」


「そうだな。期末試験も近いし、ずっとここにいられるわけじゃないしな」


 避難民に配給の仕事を代わってもらうことにした。


「それにしても、近隣の町や村が大きな被害に遭ったと聞いたけど、避難している人って、案外少ないんだな?」


「最初はもっといたんですよ。領主が食料を分けてくれないものだから、いろいろあって、避難してきた人たちの大半がこの町から追い出されたのです」


 ミーサの独り言を聞き取った避難民が答えた。


「避難してきた人を追い出す? 信じられない行為だな!」


「さらに、領主様は復旧作業に必要な資金を集めるため、この町の住民に重税を課しているのです。それに耐えられなくなった住民の一部も、どこかに逃亡して行きました」


 避難民は心配そうに話す。


「気の毒な話」


「チャラ男、人気ないんだね!」


「人気がないのは、ダミアンの親、だけどな」


「領主様は帝国に資金援助を要請したらしいのです。しかし、領地のことは領主自身が責任をもって行うようにと断られて、増税するしか手がなくなったと聞いています」


「そんなのおかしいよ! 帝国内の災害なのに、どうして領主にだけ押し付けるの! 大規模災害だよ! 帝国が援助しないのはおかしいよ!」


 前世の知識により、大規模災害時は国が復興に関わるものだと、疑って止まないトモリン。


「領主は領地のすべてを任される。帝国が関わるのは戦争が発生するときぐらいだぞ」


 この世界においては、領地のことは領主が完遂するのは当たり前のことであり、それに帝国が手助けするのは非常識なことだ。

 しかし、トモリンにはこの世界の常識が欠けているため、どうしても納得ができなかった。


「ボクたちが、帝国や領主のことを嘆いても、何も変わらない」


「そんなおかしな制度、ぶっ壊しちゃおうよ!」


「おいおい。衛兵に聞かれたら、牢屋に連行されそうな物騒なこと、大声で言うなって」


「だって、みんな困っているんだよ?」


「今は、現状を受けとめるしかない」


 不満でいっぱいのトモリンだったが、今すぐに解決できる問題でもないので、しぶしぶではあるが不満を口にするのを止めた。


 それから情報を提供してくれた避難民に、配給係として手伝ってくれる者を見繕ってもらい、配給を任せられるように指導した。


「私たちでは国の制度とか大きなことには関われない。まずは、明日から始まる期末試験に全力投球だ!」


 難しいことではないのですぐに任せられるようになり、トモリンたちは学園へと帰還した。

 学園では期末試験ウィークが始まるのであった……。



 前期末試験の結果は、期待通りの赤点で、三人とも補習を受けることになった。


「補習が終わったら、もう一度物資を運びたい」


「エマの家は、そんなに物資を提供しても大丈夫なのか? 少しぐらいなら、私に分けてくれてもいいんだぞ?」


 まだ諦めていないミーサ。


「いろいろ手伝ってもらっているし、銀の剣ぐらいなら、提供できる」


「おおお! そんな高価な物を!?」


「ミーサちゃんの剣、ドラゴンさんを切ることができなかったもんね!」


「黒歴史を……、そこで黒歴史をカミングアウトするのか……」


 机の上で指をいじいじさせるミーサ。

 補習の日々が続く。



 帝国歴301年7月。

 補習が終わり、いつものように遅めの夏休みが始まった。

 物資をポーチに入れ、モンバートの町へと転移する。

 中央広場で物資を取り出すと、前回のように物資の配給を避難民に任せ、情報収集を行う。


「南のビノラ王国では、半年以上、雨が降ってなくてね。作物が育たないらしいですよ。私も実際に行ったわけじゃないんですがね。行商をしていて、たしかに南の方で雨雲を見たことはないんですよ」


 行商人から新しい災害の情報を得た。


「今度は、ビノラ王国の人が困っているよ?」


「樽で水を運ぶのか? それぐらいじゃ、全然足りないぞ?」


「井戸を掘るか、川の流れを変えるのがいい。でもそんなことはできない」


 もしもその作業で事足りるのなら、既に作物は育っているはずだ。

 一つや二つ井戸を掘ったところで、解決にはならない。長期間雨が降っていないということは、井戸に溜まる水すらもほぼなく、減る一方なのだ。


「ビノラ王国に行こうよ! 行けば、なんとかなるよ!」


「おいおい、今度はビノラ王国か? トモリンはお人好しだなあ」


「ビノラ王国はエイクス帝国の敵国。あまりお勧めしない」


 エイクス帝国では聖ファサラン国を除くすべての隣接国が敵国扱いなっている。


「住民が苦しんでいるんだよ? 国なんて関係ないよ!」


「そっかー。夏休みだしな。旅行気分で行ってみるか」


 新調した銀の剣の柄に手をかけ、旅先ではこれで活躍できる場面があるかも、と妄想するミーサ。

 トモリンの強引な推しで、ビノラ王国行きが決定した。

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