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057話 【前の世界線】トモリン、ビノラ王国で人助け?

 エイクス帝国とビノラ王国との国境にあるリゴウ要塞。

 そこは関所の役割も果たしていて、国を跨ぐ者から通行税を取っている。


「冒険者だと、通行税は無料なのか」


 冒険者風の服装の三人は、とくに身分証明をするでもなく、見た目でそのまま通された。


 ここの衛兵は、けっこう手抜きだ。もちろん、駆け出し風にしか見えない三人を憐れんでのことでもあったのだが。


「それにしても、大きな要塞の割に、人がいる感じがしないぞ? みんな部屋に閉じこもっているのか?」


「ここだけの話ですがね。ここの守軍を任されているダスティ家が、勝手に全軍撤退させちゃったんですよ。でも、御上のほうではいろいろ権力の綱引きがあるみたいで、守軍の後任が決まらないんですよ」


 衛兵は暇なようで、機密情報らしいことをペラペラと話してくれた。


「向こうのビノラ王国は、日照りで軍なんて動かせる状態じゃないから、余計に時間をかけて討論しているらしいのですよ」


 下級貴族に任せていた国境の守り。

 この要塞の近隣ではモンバートの町が一番大きく、他の小さな町の領主の私軍など、雀の涙だ。

 だからといって、上級貴族の軍を遠征させるとなった場合、第一皇子派か第二皇子派かで揉めることになる。

 国境の守りは些細ではあるが功を得やすく、足を引っ張り合って派遣の邪魔をしていた。


 リゴウ要塞を南に抜けてすぐ、今度はビノラ王国の関所に入る。


「ここも顔パスだったな……」


「うん。ミーサは冒険者にしか見えない」


 貴族のオーラが皆無のミーサ。貧乏オーラが体から染み出している。


 関所を出ると、一面枯れた野原が目に入った。


「これ、ひどいよね?」


「予想していたよりも、深刻」


「地面が乾いて、ヒビが入っているぞ?」


 ミーサは地面を踏みしめ、その脆さに危惧を覚える。


「私、雨を降らせるよ! そうすれば、きっと緑の野原に戻ってくれるよ!」


「ちょっと待った! 今、雨を降らせるとか言わなかったか? トモリンは水属性の魔法を使えないけど、そんなこと、できるのか?」


「うん。やったことはないけど、多分、できるよ!」


 前世(夢の中)でキコウ術を学んだトモリンは、キコウ術を極めると、天気を操ることができると知っていた。

 腫瘍を治せたから自身のキコウ術の技能は高く、きっと天気を操れるはずだと思っている。


「できると仮定して、この国境付近でそれをやるのはもったいない。もっとビノラ王国の奥に入ってからのほうがいい」


 ここは国境を跨いですぐの場所だ。そこで雨を降らせても、その恩恵に預かれる者は少ない。

 エマの提案で、一行はそのまま南下することになった。


 どこまで行っても茶色の枯れた光景が続く。

 ウイングブーツによりスイスイ南へ進んだ三人は、巡礼の大街道と呼ばれる広い街道に面する町、オルシエンヌにやってきた。


挿絵(By みてみん)


 町の中央広場のベンチに座り、ちょっと買い食いしながら作戦会議をする。


 ちなみに、水不足の影響で食物全般の値段が高騰していて、串焼き肉の値段は帝国の五倍もした。

 一応観光も兼ねているので、味の違いや値段分の違いを見つけようとする三人だったが、その差は微妙だった。


「この辺りまで来れば、結構奥に来たんじゃないのか?」


「巡礼の大街道沿いにはたくさんの町や村がある。ここで雨が降れば、多くの人に恩恵がある」


「それじゃあ、ここでやっちゃおうか! エマちゃん、地図を貸して!」


「地図を使う?」


「うん。地図があるほうが、成功しやすくなるんだよ」


 ここに置けと言わんばかりに立ち上がるトモリン。


「雨を降らせるのに、空に向かって何かをするのじゃないのか?」


 どうやら、トモリンが雨を降らせる術は、地図のように見下ろした空想世界の中で行うようだ。


 エマが地図を取り出してベンチの上に広げると、それをじっと見つめ、怪しげに両手を動かし始めるトモリン。

 南の海から、湿った空気が陸地の方へ流れて来るイメージをしているらしい。


 しばらくして。


「もういいかな」


 トモリンはケロリとした顔で言った。


「全然、雨は降ってないぞ?」


「うん。なんの変化もない」


 空を見上げる二人。雲一つない青空だ。


「湿った空気がここに来るまで時間がかかるから、雨が降るのはもっと後だよ!」


「そんなものなのか」


「雨が降るなら問題ない」


 変化はあるかな、と思い、青空をぼーっと眺めていると……。


「旅の方ですか?」


 突然、知らない人が声をかけてきた。そちらに顔を向けるとそれは神官服を着ている男だった。


「我々ファサラン教会でも、毎日女神様に雨が降るようお祈りしているのですが、なかなか聞き届けてくれませんでしてね……」


「心配しなくても大丈夫だよ! 夜になったら、降ると思うよ」


「そうですか! 旅の方がここで祈祷してくださるとは、有り難いことです」


 そう言って去って行った。


 少し町を散策する三人。すれ違う町民は皆、疲弊した顔をしている。


「モンバートに置いてきた物資、少しこっちにも持ってこればよかったかもな」


「もう、モンバートに全部置いた。家に取りに戻っても、今は物資はない」


 エマの実家の救援物資用の倉庫は、空だ。

 全部、トモリンのポーチに入ったから。


「売っている物を少し買いに、帝都に行こうよ!」


「わ、私はお金がないからな!」


「ここは敵国だから、無償提供には、あまり乗り気じゃない」


 消極的な二人に対し、


「ここで買うと高いから、帝都で買うだけだよ? ココナちゃん、帝都に行こう!」


『おけー。帝都に行っくコーン!』


 三人は学園に戻ってきた。


「これから、お買い物! 行こう!」


 ミーサとエマの手を引くトモリン。


「ちょっ!」


 いきなりだったので体勢を崩し転びそうになるミーサと、見事に転んだエマ。

 ウイングブーツを履いたまま、不意に手を引くのは危険だ。


「ごめーん。エマちゃん、大丈夫? 今、治すからね! 痛いの痛いの飛んで行けー!」


 膝などを擦りむいたエマ。その傷が癒えて行く。


「……治った」


 その後は各自スイスイと進んで目的の物を買い、寮へと戻った。


「雨が降ったかどうかの、結果の確認は、明日だな!」


 ビノラ王国の町オルシエンヌは、物価が高くて宿屋に泊まる気になれない。だから、寮で一晩過ごすことにした。

 学園が夏休みということもあり、寮の食堂は休みだ。先ほど買い込んだ食料の一部が夕食となる。



 翌朝。


「ココナちゃん、オルシエンヌの町に連れてってー」


『おけー。オルシエンヌに行っくコーン』


 目的地に転移するなり、土砂降りの雨でずぶ濡れになる。


「うわっ! ひどい雨だ!」


「ほら、町の人たちが通りに出て、空を見上げている」


 目を開け続けるのも辛いぐらいの大粒の雨にも関わらず、多くの人が外に出て雨に打たれている。


「ココナちゃん、戻ろう!」


『もう戻るコン?』


「うん。戻らないと、びしょびしょだよー」


 とてもその場に立ち続けていられないくらいの豪雨。近くの軒下に移動しようにも、屋根からは滝のように雨が流れ落ちている。


『わかったコン。学園に戻るコン!』



 そんなことが三日続き、四日目の朝。


「ようやく晴れたな」


 オルシエンヌの上空は綺麗に晴れ渡っていた。

 帝都から行き来していた三人は知らなかった。

 三日三晩降り続いた雨は、通常時であれば洪水を引き起こすほどの雨量だった。

 今回、たまたま地面が乾いていて水分を多く吸収した結果、大事に至らなかっただけだ。


「次のお仕事、スタンバーイ!」


「まじか? 本当にやるのか?」


 町の外、街道の脇では、草の新芽が少しずつ顔を出し始めている。


「うん。いっぱーい植えて、たくさーんの人の悩みを解消するよ!」


「ディグショット!」


「あ、エマ! 魔道具を使うなんてずるいぞ!」


 三人は寮で食べた果物や野菜の種を、テキトーに植え始めた。


 ある程度の面積に種まきが完了したところで。


「今植えた種のみなさん。おーきくなあれー」


 手にスティックを持ったトモリンが魔法を唱える。

 すると、種から芽が出てニョキニョキと伸び始め、あっという間に果実を実らせた。


「おお! うまそうだぞ!」


「これは、商売になる!」


「エマちゃん、ダメだよ。困っている人に無料であげないと」


 三人は作業を続ける。

 そして、その一部始終を見ていた門衛が、驚き、慌てふためいて町の中へと入って行った。


 枯れ野原が、野菜畑、果物畑に変身した。

 少々、草も大きく育ったけど、それは馬などの飼料になるから問題ない。


 視界いっぱいに広がるスイカ(のような野菜)やサクランボ(のような果物)、トマトにキャベツ、トウモロコシ。配置が不規則なのがアレだが、飢えた町の人から見れば宝の山だ。


 門を通り、大勢の町の人が殺到する。


「め、恵んでくだされ!」


「いいよー。好きなだけ持ってってー」


「なんと! 無償とは! ありがたやー!」


「まだまだ植えるから、奪い合うなって! 慌てなくってもすぐ実るからそこでじっと待ってろ」


 次々に植えて実らせる三人。

 それを我先にと採取する町の人たち。


 先日の神官が、その様子を見ていた。


「枯れた大地に雨をもたらし、恵みを育む……。そして、慈愛の心で無償で分け与える。これは、聖典の女神の使徒様がご降臨なされたに違いない! 本部に連絡だ!」


 トモリンたちの情報が、聖ファサラン国のファサラン大聖堂へと、流された。


「ふぁー! 疲れたな!」

「うん。いい運動になった」

「種、全部使っちゃったね」


 空を見上げて木陰に座る三人。もちろん、そこは今植えた木だ。町の住民がよじ登ったり、ジャンプしたりして実を収穫している。


「さて、どうしようか?」


「巡礼の大街道が目の前にある。ボクは、冬休みに行けなかった聖ファサラン国に行きたい」


「聖ファサラン国、いいねー! 私も行きたい!」


 三人の目的地が決まった。

 休憩を終えると、三人は巡礼の大街道を東へ向けて旅立った。

 その姿を見たオルシエンヌの町の民からは、惜しみない感謝の言葉が投げかけられた。


「雨でようやく芽が出たみたいだな」


「町の人たちも、これで心配がなくなったね!」


 茶色かった野原に、緑色の新芽が見え隠れする。

 そんな草原の間を割くように通る巡礼の大街道をひたすら東へと進む。



 三人が旅立ってから十日ほど経った、ビノラ王国では。


「うわー! イナーゴの大群だ!」


 草でも野菜でもなんでも食べつくす虫、イナーゴが大量発生していた。

 雨で芽吹いた草はすべて食い荒らされ、トモリンたちが植えた野菜や果物も、イナーゴの群れに食い散らされた。


 トモリンは知らなかった。イナーゴの卵は、雨が降ると孵化することを。

 そして、長い期間乾燥が続いた後の雨だったため、大量のイナーゴが一斉に孵化したのだ。


 空を覆いつくすようなイナーゴの大群。

 芽吹いた小麦の芽も、一切喝采食べつくした。


「なんということだ! 女神様は、再び我々に試練をお与えになるのか!」


 イナーゴの被害によって、せっかくの雨も、水の確保以外の役には立たなかった。

 トモリンたちが植えた野菜と果物の楽園も、あっという間にただの茎、葉のない木へと変貌した。


 ビノラ王国は再び茶色の枯れ野原が広がる国へと戻った。イナーゴの大群はビノラ王国の至る所に広がって行き、残っていた木々の葉まで食い荒らし、食料不足の事態はより一層深刻化した。


 そして、後方でそんなことが起きているなんて、まったく知らずにお気楽に旅を続ける三人だった。

トモリンだよ!

良い子は、雨雲を呼び寄せたらダメだよ!

どこかに落ちる雨を移動させちゃうんだから、多くの人に迷惑がかかっちゃうよ。


そんな簡単なことでは済まないだろ?

そもそも雨雲を呼ぶと、降り過ぎてとんでもないことになるかもしれないしな。


ここは土地が乾いていたから、洪水にはならなかった。

マネすると危険。絶対にダメ。

その逆の、晴れるようにすることもダメ。

どかした雨雲がどこかに集まって大雨になってしまう。


そだねー。雲をどかして晴れにしても迷惑になっちゃうね。

だから、絶対にマネしたらダメだよ!

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