第55章:魔王軍最上位貴族スカーフェイス
地獄の釜が。
文字通り、底なしの狂気と圧倒的な暴力の熱量で煮えたぎっていた。
「ギ、オォォォォォォォォォォォッ!!!」
神王獣スルトの、鼓膜を物理的に破るほどの激しい咆哮が。
頭上の分厚い黒い噴煙を真っ二つに割って、天を激しく揺らす。
空を焦がす小山のような炎の巨人が、両手からマグマの奔流を滝のように吐き出した。
数千度を超える、触れれば一瞬で蒸発する赤黒い致死の濁流が、俺と最上位貴族スカーフェイスを纏めて飲み込もうと、津波となって殺到してくる。
「チィッ、ウザってェんだよデカブツがッ! 俺様の邪魔すんじゃねェ!」
スカーフェイスが忌々しげに舌打ちし。
上空から迫るマグマの津波に向けた、自身の太い掌を力強く握り込んだ。
「――クローズ」
その瞬間。
マグマの奔流が持っていた圧倒的な熱量と、押し寄せる運動エネルギーが。
まるで、世界の管理者によって一時停止ボタンを押されたかのように、完全に閉ざされた。
ドバシャァァァッ!という大音響と共に降り注ぐはずだった赤黒い熱の津波は。
ただの、冷え固まった巨大な黒曜石の塊となって、バラバラと無害な音を立てて大地に降り注いだ。
「――よそ見してる暇があるのかい? お貴族サマよ」
だが。
その、降り注ぐ無害な黒曜石の雨の影から。
俺はすでに、フェンリルの影移動を用いて、スカーフェイスの背後――完全な死角へと、音もなく潜り込んでいた。
無音の踏み込み。
漆黒の魔剣ムラマサを逆手に構え、奴の太い首筋目掛けて、フェンリルの神速スピードを乗せた、渾身の全力の斬撃を叩き込む。
「甘ェよ、羽虫が」
だが、スカーフェイスは振り返りすらしない。
男の凶悪な赤い瞳が、ギョロリと横目だけで、背後の俺の姿を正確に捉えた。
(……ッ! 視界に入った!)
途端、俺の視覚が、先ほどと同じように強制的にブラックアウトする。
またしても、視覚機能そのものを閉ざされたのだ。
見えない。だが、俺の剣はすでに必殺の間合いを完璧に捉えている。見えなくとも、このままの軌道で首を断つ――!
「甘ェって言ってんだろ」
見えない闇の中で。
俺の左腕に、ゴツリ、と。巨大な岩のような手が触れる、重い感触があった。
――スゥッ。
その瞬間。
俺の左腕に宿っていたフェンリルの装甲の硬度が、ゼロに閉ざされた。
鋼鉄以上の強度を誇っていたはずの神王獣の装甲が、まるで腐った豆腐のように脆くなり。
スカーフェイスの丸太のような腕の手刀が。
そのまま、一切の抵抗を感じさせずに、無造作に俺の左腕の半ばを振り抜いた。
――ブチィィィィィィィィッ!!!
「ガ……ァァァッ!?」
生々しい肉の破砕音と、骨がメシャリと砕ける耳障りな音と共に。
俺の左腕が、肩の付け根から完全に千切れ飛び。大量の血飛沫を空中に撒き散らしながら、足元のマグマの海へと落下していく。
ジュゥゥゥッ……!
マグマに落ちた俺の腕が、一瞬で焼け焦げ、消滅する不快な音と匂い。
遅れてやってきた凄まじい激痛が、脳髄を容赦なく苛み、視界が白く飛ぶ。
スカーフェイスが俺から視線を外し、俺の視界が元に戻った時には。
俺の左半身は、真っ赤な血に染まった、無惨な片腕の姿を晒していた。
「相棒ォォォォッ!!!」
俺の指示通り、戦場の空中を神速で駆け回り、攻撃しながらスカーフェイスの視線を撹乱していたラナが、悲痛な叫び声を上げる。
「おにいちゃんッ!! いやぁぁぁっ!!」
岩陰から、シャリンの泣き叫ぶ声が聞こえる。
「ギャーハッハッハッハ!! あっけねェな! まずは左腕だ! 次は右足をもいで、地面を這いずる無様なダルマにしてやろうかァ!?」
勝利を完全に確信し、下劣で傲慢な笑い声を上げるスカーフェイス。
だが。
その男の歓喜の言葉は、最後まで続かなかった。
「……大丈夫だ、シャリン」
俺は、口の端からドス黒い血を吐きながら。
千切れた左肩の醜い断面を隠すどころか、あえて奴に見せつけるように前へ出し。
ニィッ、と。口角を限界まで吊り上げて、狂気に満ちた悪魔のように嗤ったのだ。
「……完全に想定内だ」
直後。
俺は、フェンリルの武装化を解除し。
腰のベルトに宿る、神王獣ヤマタノオロチの武装化へと瞬時に切り替えた。
その、瞬間。
血が間欠泉のように吹き出していた、俺の左肩の千切れた断面から。
禍々しい深緑の肉芽が、爆発的な勢いでウネウネと蠢き出したのだ。
グチャッ、ボキボキボキィィッ!!
筋肉が鋼の繊維のように編み込まれ、白骨が急速に形成され、皮膚が波打って一気に再生していく。
神王獣ヤマタノオロチ。
その真価は、八つの分身を持つことでも、圧倒的な膂力や絶対の装甲でもない。
何度首を落とされようと、切り刻まれようと。魔力がある限り瞬時に蘇生する、理不尽極まりない超・自己再生能力だ。
わずか、一秒。
マグマに落ちて燃え尽きた左腕とは別に。
真新しい、傷一つない俺の左腕が完全に再生を果たし。
俺は、虚空を強く握りしめて状態を確認し、満足げに嗤った。
「……ハッ。てめぇ……本当に、人間か? 気味の悪りぃ野郎だなァ」
常軌を逸した修復力に。
魔王軍の最上位貴族であるスカーフェイスでさえ、一瞬だけ言葉を失い、顔の十字傷をヒクつかせた。
「安心しろ、俺は魔力も闘力も持たない、ただの人間だよ。
……だが。俺の中には、テメェらみたいなバケモノを無残に殺すための力が、何体も宿ってるんでね」
「……調子に乗るなよ、ゴミカスが」
スカーフェイスの纏う空気が。
一段階、いや、十段階ほど冷たく、重く沈んだ。
傲慢な男が、遊びの余地を完全に捨て。俺という存在を、明確な殺意を込めて全力で排除すべき敵として認識した証拠だった。
「チョコマカ逃げ回る不愉快なネズミも。後ろの岩陰でコソコソ隠れてる女子共も。……全部まとめて、この空間ごと終わらせてやる」
スカーフェイスが、ドスンと片膝をつき。
その巨大な右の掌を、高熱を帯びた黒い大地に、ベッタリと押し当てた。
男の体から、これまでとは比較にならないほど桁違いの、漆黒のドス黒い瘴気が、大地に向かって溢れ出す。
「おにいちゃん!! ダメ!! 地面が……ここにある全部が、死んじゃう未来が視えた!!!」
遠くの岩陰から、シャリンの鼓膜を劈くような絶叫が轟いた。
俺も、本能の警鐘が、ガンガンと脳を割るように鳴り響くのを感じていた。
「――クローズ」
スカーフェイスが、低く、呪詛のように呟いた瞬間。
奴の大地についた掌を中心にして、真っ黒な波紋が、爆発的な速度で地獄の釜の大地を這い回った。
パリンッ、パリンッ、パリンッ!!
その真っ黒な波紋に触れた瞬間、空間のあらゆる理が強制的に閉ざされていく。
大気の流れが閉じ、無酸素状態になる。重力が狂い、波打って煮え滾っていたマグマの海すらも、完全に空中で彫像のように動きを止めて閉じた。
さらには、空間の魔力濃度そのものが強制的に閉ざされ、魔法の発動を根本から禁じたのだ。
「くっ……体が……重いッ! 飛べない!」
神速で空中を駆けていたラナが。空中で目に見えない強固な壁にぶつかったように完全に失速し、地面に不時着する。
「キャァァッ! 私の防壁が……閉じている!? 魔力が、練れない!」
遠くで展開していた、魔法すら無効化するはずのサーシャの絶対防壁すらも。
周囲の魔力を閉ざされたことで、表面にピキピキとヒビが入り始めていた。
「ギャーハッハッハッハ!! これでー! 誰もー! 逃げられねェ!!
息もできねェだろォ!? そのまま窒息して、全員仲良く焼肉になりやがれ!!」
環境すべてを閉ざし、相手を完全に無力化する、スカーフェイスの広域必殺技。
だが。
俺は、強制的な無酸素状態に息苦しさを感じながらも。
ニヤリと、最高に性根の悪い笑みを浮かべた。
「……バカが」
俺は、血の混じった唾を吐き捨てた。
「俺の魔力は完全にゼロだって、さっき自分で言っただろうが」
俺自身には。
外から干渉されて閉ざされるような魔力も闘力など、最初からないのだ。
周囲の魔力濃度がゼロになろうが、俺の武装化は、すでに神王獣の魔力を内部に留めている。
俺は、体内のフェンリルの武装化回路を極限まで引き出し。
空間が完全にゼロに閉ざされる、その直前のコンマ一秒の隙間を縫って、自身の影の中へと強引にダイブした。
「ギ、オォォォォォォォォォォォッ!!!」
スカーフェイスの広域封鎖の理をも、強引に力で捻じ伏せるように。
背後のマグマの海から、神王獣スルトが大気を瞬時に焼き焦がしながら咆えた。
不意打ちで顔面を蹴り飛ばされた炎の巨人が、両手にマグマの奔流を纏い、大地を割りながら猛烈なスピードでこちらへ突進してくる。
国を消し去る巨大な炎の剣が、太陽をも凌駕するほどの極光を放ちながら。
俺たちとスカーフェイスが存在するこの一帯すべてを無に帰すべく、大上段から無慈悲に振り下ろされる。
「チッ、またその剣かよ! だからぁ! んなもん効かねぇってのぉ! このデカブツがァ!!」
スカーフェイスは、姿を消した俺への攻撃を後回しにし、頭上から迫り来る炎の巨剣に向けて両手を突き出した。
迫る炎を閉ざし、剣を受け止めるために。
(……今だ!!)
この完璧なタイミング。俺のとっておきの奇策を見せてやる。
俺は、スカーフェイスの足元に伸びていた、わずかな影の隙間から音もなく跳び出し、奴の背後に完全に張り付いた。
「なっ……テメェ、いつの間にッ!?」
「テメェは炎をも閉ざせるんだろ? なら、そのまま俺の防波堤になりやがれ!!」
俺は再生したばかりの左腕で、スカーフェイスの巨体を背後からガッチリとホールドし。
フェンリルの神速で瞬時に。
俺と、スカーフェイスと、スルト。
その三者の立ち位置が、一寸の狂いもなく、完璧な一直線となって重なり合わせた。
頭上から、国を消す炎の大剣が叩きつけられる。
スカーフェイスは、背後を俺に取られた状態で回避を完全に諦め、両手でその大剣の炎を閉ざして受け止めるしかなかった。
ズッッッッッドォォォォォォォォンッ!!!
スカーフェイスの両手が剣に触れた瞬間、凄まじい衝撃波が地獄の釜を激しく揺らす。
炎と熱は閉ざされたが、神王獣の圧倒的な運動質量までは完全に殺しきれていない。
奴の両手が完全に上空へと塞がり、巨体がミシミシと悲鳴を上げて軋んだ。
「もらったァァァッ!!」
俺は、スカーフェイスの背中から手を離すと同時に。
体内の武装化を、限界突破の領域まで引き上げた。
「――ヤマタノオロチッ!! フェンリルッ!!」
空間を掻きむしるようにしてブレ、俺の身体から七人の分身が爆発的に弾け飛ぶ。
だが、今回の分身はただの同様の質量体ではない。
手持ちの二体の神王獣のカードを合成させ、特性の比率を書き換えた、特化型の混濁の八刃。
四人の俺は、白銀の毛皮を主軸に深緑の意匠が混じる、フェンリル8割・オロチ2割の神速特化フォルム。
残る俺を合わせた四人の俺は、深緑の重厚な装甲に白銀のパーツが複雑に混じる、オロチ8割・フェンリル2割の剛力特化フォルム。
「なっ、なんだとォォ!? 能力が、混ざって……!?」
大剣を受け止めて身動きが取れないスカーフェイスが、驚愕にその赤い目を見開く。
「遅ェよ、お貴族サマ」
視界に収められて何かを閉ざされるよりも、さらに早く。
神速特化の四人が、スカーフェイスの前後左右から一瞬で接近し。奴の両手両足の関節へ、漆黒の魔剣ムラマサを深々と突き刺し、身動きが取れないように縫い留めた。
「ガァァァァッ!? テ、メェェェッ!! 動けねェ……!」
手足を完全に封じられ、無防備になったスカーフェイスの正面。
そこへ向けて、俺を合わせた剛力特化の四人が、空気を木っ端微塵に蹴り砕きながら、一本の肉の矢のように一直線に突っ込んだ。
「俺の、復讐の糧になれェェェェッ!!!」
オロチの圧倒的な怪力と、フェンリルの爆発的な推進速度のすべてを乗せた、四本の漆黒の魔剣ムラマサ。
それが、スカーフェイスの分厚い胴体を、紙切れのように容易く貫通し。
さらにその後ろに立つ、大剣を振り下ろした姿勢のままの神王獣スルトの巨大な胸のコアごと。
完全に一本の線として貫き通した。
ズバァァァァァァァァァァァァンッッ!!!!
鼓膜を破壊するほどの、凄まじい轟音。
余波の衝撃波が、足元のマグマの海を真っ二つに叩き割り、地獄の釜を覆っていた不吉な噴煙が、一瞬ですべて吹き飛んだ。
「ガ、アァァァ……バカ、な……。俺様、が……最上位、貴族のこの俺が……。こんな、魔力もない、羽虫に…………」
胸に、心臓ごと巨大な大穴を開けられた最上位貴族スカーフェイスが。
信じられないものを見るように目を見開き、やがてその凶悪な瞳から光を失って絶命し、ドサリと崩れ落ちた。
「オ……ォォォ…………」
同時に。
胸の核を完全に破壊された炎の神王獣スルトが、断末魔の呻きを上げて、ボロボロと崩れ落ちながらマグマの海へと沈んでいった。
――静寂が。
すべてが焼き尽くされた地獄の釜に、嘘のように訪れる。
俺は混濁の分身を解き、血に濡れたムラマサを無造作に一振りして血を払い、残心を解いた。
肺が焼けるように熱い。強引な武装化の酷使で、全身の骨が軋んでいる。
だが、俺の頭は、氷のように恐ろしいほど冴え渡っていた。
「おにいちゃん……! すごい……! 勝ったよぉ!」
「本当、毎回毎回心臓に悪い戦い方ね……。見てるだけで、寿命が三年は縮んだわ」
遠くの岩陰から。
シャリンとサーシャが、心底からの安堵の息を吐きながら、熱風の中をこちらへ駆け寄ってくる。
サーシャの絶対防壁は、スカーフェイスの空間封鎖によってヒビだらけになっていたが、なんとか最後まで二人を守り抜いていた。
ラナも、光の翼を畳んで空から舞い降りる。
「相棒! 最高だよ! あの傲慢な十字傷の顔! ざまぁみろだね!」
ラナが、嬉しそうに俺の肩をバシバシと力強く叩いた。
「……まだだ。騒ぐな」
俺は、彼女たちの歓喜を冷たい声で制し。
胸に大穴を開けられ、黒い岩盤の上に無様に転がっている、スカーフェイスの巨骸を見下ろした。
「まだ、終わりじゃない。一番重要な仕上げが残ってる」
万物を閉ざす能力。
この理不尽極まりない力は、最上位貴族の頂点、さらにはあの魔王を確実に殺すために、絶対に必要不可欠なピースだ。
俺は、奴の死骸に右手を伸ばし、己の異能、武装化のイメージを脳髄で強烈に描いた。
「ただ死んで、それで終われると思うなよ、スカーフェイス。
テメェのその傲慢な魂ごと……俺の復讐の道具として、くたばったあとも永遠に酷使してやる」
俺の冷酷な宣告と共に。
スカーフェイスの巨骸が、眩い漆黒の魔力と瘴気へと変換され、俺の左手へとすさまじい勢いで収束していく。
それは、身に纏う防具としての形をとらなかった。
俺の左手の中に顕現したのは。
一つの、持ち手が存在しない、剥き出しの不気味な刃――聖剣スカーフェイスだった。
白銀の刀身には、奴の顔にあったあの醜悪な十字傷を思わせる、禍々しい赤い紋様が不気味に刻まれている。
そして、その正しい使い方が、俺の脳のシナプスに直接、システムのように送り込まれてきた。
(……突き刺した対象の機能を、刺している間、強制的に永続で閉ざす。……なるほど)
俺は、柄のない刃の根元を、怪我をしないよう慎重に握りしめながら、冷たく嗤った。
(柄がない、ただの刃。通常の近接戦闘の打ち合いじゃ、自分の手が斬れて絶対に使い物にならない。
……だが、機能としては破格の極みだ。ここぞという死に体で相手に突き刺せば、最上位貴族の能力すらも完全に封じ込めることができる)
さらに、俺は。
マグマの海へと沈み、ボロボロと崩れ落ちていくスルトの残骸の熱量にも、手をかざした。
ズゴォォォォォッ!!
白炎となって燃え上がるスルトの莫大な魂が、眩い極光を放ちながら。一振りの炎の剣へと形を変え、俺の右手へと収まった。
俺は、その途方もない威力の手応えを確かめるため。
頭上の、分厚い火山灰で覆われた暗い空に向けて、炎の剣を軽く振ってみた。
そう、本当に、手首を返してただ軽く。
直後。
炎の剣の刃先から。
かつて前の世界で体感した、ウルシア王国第三王子ジークが使っていたアーティファクト・ヒナワを彷彿とさせる――いや、ヒナワの数十倍の質量と威力を秘めた。
すべてを灰にする紅蓮の太刀筋が、上空へと放たれた。
――ズドォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!
「え……? 嘘でしょ……」
サーシャが、その信じがたい光景に、呆然と声を漏らした。
シャリンもラナも、口をあんぐりと開けて空を見上げている。
俺が放った、一振りの紅蓮の太刀筋は。
頭上の分厚い火山雲どころか、周囲の空間の大気そのものを一瞬で広範囲に蒸発させながら、空を真っ二つに突き抜け。
そのまま大気圏を突破し、宇宙の彼方へと、星の瞬きのように消え去っていったのだ。
地獄の釜の空に、雲一つない、薄極彩色の青空が、無残なほどに丸くポッカリと開いていた。
「……こりゃ、街中じゃぶっ放せねぇな。味方や建物まで、一瞬で蒸発する」
俺は、あまりの規格外の威力に苦笑交じりに呟き。
その、神王獣スルトの一部である炎の剣を、脳内のイメージで極限まで圧縮していった。
炎の質量は、俺の意思に呼応してシュルシュルとみるみるうちに小さくなり。
最終的にそれは、俺の左耳に、燃え盛る小さな炎を象った紅蓮のピアスとして、静かに、だが確かな熱を持って定着した。
腰のベルトには、圧倒的な膂力、そして超再生と分身を司る神王獣ヤマタノオロチ。
右足のアンクレットには、神速と影への潜行、絶対的な機動力を可能にする神王獣フェンリル。
左耳の紅蓮のピアスには、国を一振りで消し去る、灼熱の広域殲滅兵器神王獣スルト。
そして、左手には。
万物を閉ざす、持ち手なき呪いの刃、聖剣スカーフェイス。
――完璧だ。
地獄の釜の熱風が吹き抜ける中。
俺は、冷たく淀んだ瞳で、左耳の紅蓮のピアスを指でピンッと弾く。
魔王の、そして、俺から仲間とすべてを奪った魔族どもの首へ向けて。
俺の殺意と、手元に揃った狂気の手札は。世界そのものを容易く滅ぼしうる、さらなる絶望的な次元へと、完全に進化を遂げたのだった。




