最終章 「星々のINTERLUDE」第2話
翼は、制服へと着替えた。
ボタンをひとつずつ留める指先が、わずかに重い。重いのは、緊張のせいだけじゃない。
始めは、自分だけの夢だった。
SNOW WHITEを、自分の足でやりたい。
それだけだった。
それがいつからか、みんなの目標になっていた。
みんなが諦めていた再演。1部の熱狂。
それに続く、第2部。
これの良し悪しで、続く第3部がかかっている。SNOW WHITEを完成させるための、大事なピース。
流星たちも、ここのステージまで立った。
流星を超えるには、第2部の成功は必須条件だ。
条件の重さが、制服の肩に落ちる。
翼は一度だけ深く息を吸う。
「大丈夫だよ。みんながいるから、私は飛べる」
ただの独り言なのか、誰かに向けた言葉なのか、
翼自身にもわからない。
でも、今の自分たちなら、
流星にはできなかったSNOW WHITEを作れる。
超えられると思っている。
「私は、1人じゃない」
ほっぺたをペチンと叩く。
気合いを入れる音が、部屋に小さく落ちる。
「よし!」
扉を開ける。開ける先に、光があった。
光の中へ、翼は一歩、踏み出す。
踏み出した足は、軽く空を飛んでるかのように軽かった。
結依は、本番前までに行っておきたい場所があった。
普段あまり使われない部屋。“エーデルの間”。
エーデルたちの談話室。
百合々咲のエーデルのみが入ることができる場所。
石造の部屋には、伝統が詰まっていた。
部屋の奥に鎮座する石造りの椅子。
椅子は、陽光にあたっていても、
石の冷たさを保っていた。
エーデルが司る世界に、もう一度、百合々咲の舞台に立つ許可を得ようとしていた。
この許可が、自分がこの舞台に戻れる最後のピースであると思っていた。
「私は、一度この舞台から降りた……。もう一度、この舞台に……。みんなと一緒に立ちたいです」
部屋には、1人。当然、誰も答えてはくれない。
答えないまま、石の椅子だけが彼女を見ている。
「ここは、エーデルだけの場所ですわよ」
「おはよー、結依ちゃん」
扉に、砂月と二乃がいた。
いた先で、結依は一度だけ立ち止まる。
「私も、元エーデルなんだけど?」
結依の声は、静かだった。
静かなまま、彼女は石の椅子から目を離さない。
離さない先で、二乃が小さく笑う。
砂月が「……まあ、いいですわ」と、
小さく息を吐いた。
「そろそろ出発するみたいだから、行こ」
「うん」
今一度、椅子を見ると、変わらない冷たさを保っている。
許可は得られなかったな、と思った。
思ったまま、結依は一度だけ深く息を吐く。
ふと、開け放たれている窓辺を見ると、
白い鳩が1羽止まっていた。
まるで、結依をじっと見ているかのようだった。
ゴーン。
百合々咲の鐘の音が、校内に響く。
その音にびっくりしたのか、鳩が飛び去って行った。
その鳩から、白い羽が落ち、結依の手のひらに落ちた。
落ちた羽は、軽かった。
軽いのに、どこか温かい。
まるで、世界が結依を空に戻る許可をしたかのように、美しく羽が輝いて見えた。
飛び去った鳩に向かって、結依は小さく手を振る。
「ありがとう」
その声が、石の部屋に一度だけ落ちる。
羽はまだ、彼女の掌の中で静かに光っていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第2話 完




