最終章 「星々のINTERLUDE」第1話
朝の陽光が、優しく部屋に差し込んでいた。
柔らかな光の中で、少女たちは目を覚ました。
カーテンの隙間から入る光が、部屋の床をゆっくりと渡る。
渡った先で、壁にかかった制服が、
それぞれ違う色を返していた。
百合々咲音楽学院。
立風館女学校
アクターズミュージカルアカデミア
カリスティックアーツ芸術学園
それぞれ違う場所から集った者たちの光が、今日、重なろうとしていた。重なる前の朝に、翼は赤のリボンを結ぶ。
「早起きね」
後ろから李梨奈の声が聞こえる。
「早起きにもなるよ。SNOW WHITEやるんだから」
翼は、笑顔で答えた。
答えた声はどこまでも明るく響いた。
寮は変わらない朝だった。
しかし、皆どことなく、
SNOW WHITEに対する緊張感を隠せずにいた。
その中で、黎夏と朱は、
いつも通りの明るさを保っていた。
もはや才能とも言うべきものなのか、
緊張というものを知らないようだった。
「朝から、たくさん食べるね」
プラナが、2人の前にある皿を見ていた。
2人の皿の上に、ゆうに2人前はありそうな量の朝食が並んでいた。
「ちゃんと食べとかないと、力入らないからな」
「お腹すいちゃうもん」
本番の日なのに、あまりにもマイペースな2人。
マイペースなまま、黎夏が「このパン、おいしい」と笑う。
笑った先で、葵と翠月が同時に肩を落とす。
「お互い、相方がマイペース過ぎて苦労しますね」
「まったくですよ」
2人の声が、食堂の端で一度だけ重なったように感じた。
「それが、二人らしいからいいじゃん」
八重は、マイペースを否定しない。
自分の道を見失わない生き方だと思っているから。
「哪吒さんは?」
食堂に、哪吒の姿が見当たらない。
哪吒だけじゃなく、マナや結依の姿も。
あの3人が寝坊とは、どうしても考えづらかった。
葵は一度だけ食堂の入り口を見る。
見ても誰も入ってこない。
「マナさんと結依は分からないけど、哪吒は風呂入ってると思うよ。大事な舞台の前には、風呂に入るのが習慣らしいから」
八重が、パンを一口噛みながら言う。
言う声は、いつもの明るさより少しだけ低い。
低いのは、彼女も同じ「大事な舞台」を知っているからだ。
哪吒は、浴場で静かに湯船に浸かり、
瞑想をしていた。
この時間が、落ち着く。
大事な舞台の前には、こうして精神を集中させる。それが、彼女のルーティンであった。
頭の中で、今日の舞台のイメージを巡らせる。
頭がスッキリしているからなのか、
いつも以上に明瞭に見えている。
見えている先の立ち回りのが、一度もぶれない。
ピトピトと、足音が近づいてくる。
顔を上げると、マナが湯船に入ろうとしていた。
「マナ・ゴールドエーカー……」
「朝風呂か?」
「そっちも」
「リナが入りたいって、入って聞かないから」
(マナも入りたいって言ってたじゃん)
頭の中で、リナが叫んでいた。
(うるさい)
マナは、静かに哪吒の横に座った。
かつて一方的にライバルと思っていた人が、今日、同じ舞台に立つ。
立つ事実を、哪吒は湯の中で一度だけ受け入れる。受け入れたまま、彼女は何も言わない。
「今日はよろしく。一緒に、SNOW WHITEを完成させよう」
マナから言ってきたのは、正直驚いた。
でも、王だからこそ、舞台の上では今までのしがらみや関係性は関係ない。
そこにある物語こそが全て、と言われているように感じた。
「まさか、王からそう言うとはな……」
「舞台に立てば、今までのしがらみや関係性は関係ない。そこにある物語こそが、全てだ」
完全に、哪吒の思考と同じだった。
「やっぱり、あなたたちに勝てないな」
(マナ、今自分いいこと言ったなって思ってるでしょ)
「思ってない!!」
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第1話 完




