↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第10章 「彩りの星が奏でる間奏曲」
PR
77/86

第10章 「彩りの星が奏でる間奏曲」 第8話

二乃たちも、ひなたたちも帰宅したあと、ゼロタイムの片付けを翼は手伝っていた。


さっきまで皆で語り合ったテーブル。


なんか、ちょっとだけ遠くの過去のような感じだった。


カップの輪が、まだ木目に残っていた。


「ねぇ、お姉ちゃん」


翼はテーブルを拭きながら、李梨奈を呼んだ。


「ん?」


李梨奈も振り返らずに、カウンターの中を拭く。


「お姉ちゃんの時って、どんな感じでSNOW WHITE作ってたの?」


翼たちにとって、過ぎ去りし流星たちの

SNOW WHITEは、完成された舞台しか知らない。


第1部の輝き。第2部までの伝説。

第3部が落ちた夜の話は、噂の方に残っている。


当時の練習風景は、実際のところ、

当の本人たちしか知らない。


「なんか、やりたいようにやってたな」


李梨奈が、布巾を一度止める。

止めたまま、12年分の稽古場をカウンターの奥に置く。


自由奔放なひなた。


貴公子としてみんなを引っ張っていた凛。


圧倒的なオーラのフィーア。


舞台を支配する実力の妹蘭。



個性と個性のぶつかり合いだった。


誰かが中心に立つ、というより、5つの光が同じ箱の中で互いを弾いていた。かつてのフラウ・ヒンメル(空の君)は、その真ん中で歌っていた。



「翼たちみたいに、外部の演出なんていなかった。全部、自分たちでだった」


「全部?」


「そう。全部」


本来、エンドレス・ワルツはその1年間、

学院で学んだことを発表する場。


外部の演出家を招くのは、本当に稀であった。


ロゼの席も、アンダルシアの影も、

12年前の稽古場には無い。


「演出とか、本当に大変そうだったな」


李梨奈は、どこか遠くを見ているようだった。

カウンターの布巾が、手の中で一度止まる。


止まった先に、第3部の落ちた夜があるのか、

ぶつかり合った昼があるのか、翼には見えない。


「学生だけであの舞台を?」


「学生だから、出来たとも言える」


李梨奈が、やっとこちらを向く。


誇らない。誇らないまま、

限界の外側にいられた時間を置いている。


社会の看板も、劇場の序列も、まだ5人の肩より重くなかった頃。やりたいようにが、演出の代わりをしていた頃。


「ちょっと、怖気づいた?」


「ううん。全然」


正直、それは嘘だった。百合々咲の学生たちだけでやれた舞台を、今はアンダルシアや他校の力を借りて上演しようとしている。


それは裏を返せば、

絶対に失敗できないを意味していた。


「翼たちなら、できるよ」


李梨奈の声は優しかった。

パチン、と李梨奈は照明のスイッチを全部消した。


店内の明かりが落ち、

窓の外に無数の星が輝いて見えていた。


さっきまで語り合ったテーブルが、

闇の中で輪郭だけを残す。


翼は布巾を持ったまま、空を見上げた。


「昔の私たちは、ひとりひとりが星。個性が強すぎて、自分で輝けていた。でも、本来星は1人では輝けない」


李梨奈も、星空を見上げる。

ひなたの自由も、凛の貴公子も、フィーアのオーラも、妹蘭の支配も、全部、単独の光だった。


単独の光は、第3部の手前で散った。


「翼たちは、小さくても星になれる。小さな星が集まれば、それは大きな星座になれる。私たちを超える、大きな星座に」


「……うん」


それは、姉からの言葉なのか、

先輩としての言葉なのか分からない。


分からないまま、翼は頷いた。


頷きは小さい。小さいのに、

嘘のあとの胸には、さっきより確かな重さがあった。


それでも、自分たちは舞台の上で輝ける星になれる。何故か、そう確信を持てた。


消えた照明の代わりに、

窓の外の星が、5人分の席を静かに照らしていた。


そっと、李梨奈が翼の肩に手を置き、そっと囁いた


古くから伝わるその言葉を



「剣が導く未来のために……」




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……



世界を知る物語である。


第10章 「彩りの星が奏でる間奏曲」完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。