第10章 「彩りの星が奏でる間奏曲」 第6話
夕暮れの商店街に、カリスティックの2人、
マナとプラナの姿があった。
商店街を、タピオカを片手に歩いている。
白い宮殿の制服を脱いだ王と、序列の隣にいる銀。
肩を並べ夕陽に染まる商店街を歩いていた。
「マナがタピオカ飲みに行こうなんて誘うなんて、珍しいね」
数分前に、マナから一緒に行かないか、と誘われた。
リナなら分かる。少女は、甘いものに弱い。
マナから誘ってくるとは、プラナでさえ予想外だった。
「錫音に、もう少し女子高生らしいことしたら?と言われたからな」
序列が絶対とされる学園での、友と呼べる者たち。
その者たちの前では、自分はマリナではなく、マナでいられる。
「それで今タピオカ?とっくにブーム過ぎてるよ」
タピオカが流行していたのは、数年前のこと。
マナ自身、流行に対して興味はなかった。
だから、今何が流行っているか知らなかった。
女子高生らしいの見本が、数年遅れで手元に来ている。
「店は、人気っぽかったぞ」
「そりゃ、流行る前からあのお店は人気だったから」
プラナが、少し肩を落とす。銀の自由は、
流行の賞味期限も知っている。
「リナの方が、流行に敏感だよ?」
「全くだよ。マナ、何にもわかってないんだから」
突然、マナの口からリナの言葉が出てきた。
声の温度が、一度だけ幼くなる。プラナは驚かない。それが当たり前なのだから。
街角のスクリーンに、新しいコスメアイテムの宣伝PVが流れていた。
プラナが何気なく見上げると、
写っていたのはVTuber、雪道ホノカだった。
画面の中の少女が、季節の名前を持ったままリップの色を語る。
「あ、ホノカちゃんだ!」
リナが、推しを見つけて嬉しそうに声を上げる。
「いや、VTuberとコスメアイテムのコラボって何よ」
しかし、そのコスメアイテムは今や日本だけではなく、世界的な人気ブランドだった。
VTuberと組んで知名度を伸ばすのは、 分からんでもない。
「うんうん、日本でもちゃんと流れてる」
マナたちの横で、1人の女性がコスメのPVを見て頷いていた。
そこに立っていたのは、ピンク色のスーツを身に纏った女性。一目で、他の人と雰囲気が違うことが分かった。
「あ、あの……」
プラナが声をかける。銀は、知っている顔を見落とさない。
女性はそれに気づくと、静かに人差し指を口の前に当てた。
「しー。君たちの言いたいことは分かるよ。でも、ここは人目が多いからね。こっち、おいで」
女性は、マナたちを人気の少ないところへ誘導した。
(マナ、今のって)
脳内で、リナが聞いてくる。推しの画面より、
隣のスーツの方が先に名前を要求する。
フィーア・ウィナー。
過ぎ去りし流星の元フラウ・ボーデン(地の君)。
ベンチに腰かけると、フィーアは脱力したような感じだった。
ピンクのスーツが、路地の影で少しだけ緩む。
「いや〜、バレちゃったか。意外とバレないもんだと思ってたのに」
「あなたの雰囲気は、他の人以上に感じます」
プラナが、素直に返す。マナは頷かない。
頷かなくても、流星の地はもう目の前にいた。
リナが胸の内側で小さく息を呑む。
「カリスティックの子たちでしょ。白い宮殿の匂いがする」
「……よく分かりますね」
プラナが先に返す。マナは口を開かない。
開かない代わりに、
リナが内側で体を揺らしている。
「分かるわよ。私、フラウ・ボーデンだったから。雰囲気で大体のことは分かる」
フィーアが笑う。
「さっきのPV、あなたが?」
「まぁね。うちの会社のコスメ部門の新製品だし。日本でちゃんと流れてるか、見に来ただけ。VTuberって、今のトレンドにピッタリじゃない?」
フィーアが、路地のベンチで肩をすくめる。
「私には、よくわかりません」
マナは、流行やトレンドを知らない。
知らなくても生きてこれたから。
「流行やトレンドは、今の世界そのもの。世界を知るなら、身近な流行からよ」
フィーアはポケットから小さなリップを取り出し、マナの手に置いた。
「これ、PVで流れた子の色。流行遅れのタピオカより、今の女子高生らしいわよ」
(マナ、それ貰って!)
リナが内側で手を伸ばす。マナは受け取る。
受け取った指が、一瞬だけ幼く震えた。
「ありがとうございます」
マナが頭を下げる。
「小さな世界から、大きな世界へ。舞台は、そういうとこも教えてくれる場所」
フィーアは立ち上がり、スーツの裾を払う。
払い終えた背中は、もうモデルだった。
「SNOW WHITE、楽しみ。私たちに出来なかったことが形になりそうで、世界が広がりそう」
「絶対、いい舞台にさせます」
プラナが言う。その言葉は、決意でもあった。
「じゃあね」
そう言い残すと、フィーアは人混みの中へ消えていった。ピンクのスーツが、商店街の夕暮れに溶ける。溶ける前に、一度だけ振り返らない。
マナの手元に、フィーアからもらったリップが握られていた。
「なぁ、こういったコスメの使い方、知ってるか?」
「うーん、私も基本ナチュラルメイクだからね。カリスティック帰ったら、りんねちゃんに一緒に教えてもらお?」
「そうだな」
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第6話
完




