第10章 「彩りの星が奏でる間奏曲」 第2話
SNOW WHITE 第2部も、終盤に差し掛かっていて、完成も間近に迫っていた。
最初の頃はなかった舞台装置や背景装置が、着々と出来てきて、本番同様の練習が日に日に増えていた。
緑の森、豪華な城、小人たちの家。
色のなかった床に、世界が積み上がっていく。
「すげぇ……」
「さすが百合々咲、といったところね」
朱と葵が、出来上がった背景装置を見上げていた。
立風館では、ここまで大掛かりなものはそうそう見たことがない。
「立風館って、ここまでやらないの?」
八重が、興味本位で聞いてみる。
「うちら、ここの舞台創造科みたいな学科ないからな」
「それに、規模も全く違いますからね」
朱と葵が言う。双剣の姉は荒く、妹は静かに、
同じ事実を2つに分ける。
「立風館は、派手な演出がない分、中身で勝負する演目が多いと聞く」
哪吒が言った。
別の学校の強さを、比べずに置く。
装置のない舞台。
視線と呼吸と、刃の一筋で客を止めるやり方。
静と動。それが、立風館の舞台。
「これ終わって立風館戻ったら、なんか物足りなく思うんだろうな」
「……私もそう思う」
小道具は、リアリティ追求のため、何度も何度も試作品を重ねた上で制作されていた。
客席からは一瞬しか見えない籠、剣、薬瓶。
それでも舞台創造科は、
見えない側の重さまで捨てなかった。
「凄い!翠月、みてこれ!」
黎夏が小道具を持ち上げて見ている。
まるで新しいおもちゃを手に入れた子供みたい。
太陽のアイドルが、試作品の剣を光にかざす。
「おもちゃじゃないんだから!」
翠月が注意する。合図を拾う側の声は、
舞台の上でもカゴの前でも変わらない。
「大丈夫。そのカゴの中のやつは試作品で、もう使わないやつだから」
光葉が、後ろから声をかける。
演出補佐の隣で裏を回す2年が、壊していいものと、本番に残すものを正確に分ける。
カゴの中には、優に百を超える小道具が詰まっている。刃先の角度、柄の太さ、籠の編み目。
一度舞台に上がり、落ちた形の墓標だった。
「試作品、どのくらい作るんですか?」
翠月が聞く。
「うーん。今黎夏ちゃんが持ってる、ロートとかブラウが使う剣は、100個くらい?」
「100個??」
「うん。あ、デザイン書見る?」
光葉が机に置いてあったデザイン書を開く。
そこには、100パターン以上のデザイン案があった。ひとつひとつ、デザインも柄の紋様も違う。
流星の残光をなぞったもの、1年の手が滑らないよう握りを太くしたもの。
ただ、翠月には、すごく引っかかるものがある。
「デザインはすごいんですけど……色使いというか……ちょっと独特、って言われません?」
光葉のデザイン書は、どれも素晴らしいデザインだった。
剣の重心、籠の編み、紋様の密度。
100の試作品を支える線は、正確だった。
しかし、色が派手なものが目立つ。
森の緑が蛍光に近づき、城の金が舞台照明より先に叫び、小人の家の屋根が虹の端を拾っている。
ファンタジーと言えば言える。
言えるが、白雪姫の純白の隣に置くと、音がうるさい。
「そう?SNOW WHITEってファンタジーだから、こういう色の方が良くない?」
光葉は悪びれない。
自分の色を世界観の正解だと思っている顔をしていた。
正直、誰しも思っていた。
絶対に、世界観に合わないと。
「私は嫌いじゃないんだけど、流石に派手だよね」
二乃が、話に入ってきた。
「なんで、私のセンスわからないかな?」
「多分、みなさんわからないと思います……」
翠月が、苦笑い混じりで返す。
「翠月も、D4のグッズ作る時、奇抜な色にしてみたら?」
黎夏が言う。太陽は、派手を悪い言葉だと思っていない。
「絶対にダメ。そもそも、ひまり先輩がそういうのダメって言うし」
翠月は、D4のグッズデザインも担当していた。
アイドルの色は、舞台の虹とは別の規律で決まっている。
「黎夏ちゃん、私どんなのが出ても買うよ!!」
二乃の目は、オタクそのものになっていた。
「じゃあ、翠月。D4メンバーのリアル等身の胸像フィギュア出そうよ」
「欲しい!!欲しい!!」
黎夏と二乃が盛り上がる。
太陽と風が、同じ熱量で悪い企画を育てる。
「絶対に作らないから」
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第2話 完




