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SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第9章 「交わる星は星座となる」
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第9章 「交わる星は星座となる」 第1話

エーデルと矮星。

異なる2つの天才を交えた舞台は、

激しさを増すものとなっていった。


飛び交うロゼの指示。

舞台上を動き回る役者たち。


「遅い。呼吸が合っていない」

「転換、2秒削れ」


アンダルシアの声が、レッスン室の天井に当たって跳ねる。


第1部で鍛えられた者たちでさえ、

息を整える暇がない。


1年生たちは、必死に食らいついてきていた。


入学して早々の大きな舞台。

基礎も名前も、まだ身体に定着していない。


その状態で、流星を超えるための舞台に放りこまれている。


少女たちは必死になって、もがいていた。


立ち位置を1つ間違え、すぐ謝る。

剣の軌道についていけず、朱に軽くいなされる。


葵の剣舞の速さに目が追いつかず、

二拍遅れて止まる。


「ごめん、もう1回——」


「いい。止まらずに次へ。止まったら、そこで死ぬ」


朱の言葉は粗い。悪意ではない。


立風館の双剣は、優しさを速度で置くタイプだった。


一方で結依は、1年の肩に手を置く。


「今の一歩、半歩だけ前。息は吐いてから動いて」


元・フラウ・ヒンメルの声は、百合々咲の言葉に戻っている。


去った席は埋まっている。それでも指導の手つきだけは、この学院の空気を覚えていた。


アカデミアの黎夏は、合間に1年へ笑顔を向ける。


「今の、可愛かったよ?もう1回、一緒にやろ」


翠月がすぐに止める。


「黎夏、台本通り。勝手に増やさない」


「分かってるって。でも固いと転ぶじゃん」


カリスティックのプラナは壁際で腕を組んだまま見ていた。


序列の世界から来た目は、上手い下手より先に「今、誰が場を持っているか」を測る。


「あの位置は白雪姫の動線と被るから周りもう少し見て」


短く指摘する。事実を置くだけだ。


それでも指摘された1年は、目を見開いて頷いた。


二乃がアンサンブルの列を整え、

八重が動線を口にする。


砂月が1年の手の形を直し、

哪吒が黙って見本を出す。


エーデルは頂点であり、

同時に現場の支えでもあった。


矮星は刺激であり、同時に壁でもあった。


2年の侑樹がインカムを押さえ、ロゼの横で叫ぶ。


「1年照明、キュー遅れないで。転換の起点になるから」


光葉がセットの角を確認し、

華が衣装の裾を走る役に合わせる。


舞台創造科も、もがきの輪の外にはいなかった。


翼は白雪姫の位置で呼吸を整える。

隣でマリナが立つ。


1年がマリナの袖に触れるように聞きに来る。


「ゴールドエーカーさん、今の間、これで合ってますか」


マリナは一瞬だけ目を細め、それから短く頷いた。


「合っている。ただし、もう少し堂々と前に出ろ」


王の言葉は冷たい。


それでも1年は、叱られた顔ではなく、

拾われた顔をした。



1年生のもがきが、舞台の中心にあった。


異なる2つの天才がぶつかり、その隙間を、

まだ名前の浅い少女たちが走っていた。


SNOW WHITE第2部は、美しさより先に、

息切れと足音で形を成し始めていた。



「赤尾。明日から3日間は、俺は席を外す。後は頼む」


ロゼの声は、いつものように低かった。


演出席のタブレットを閉じる音だけが、

短い余韻を残す。


「分かりました」


侑樹は反射で頷いた。


演出補佐として、不在の穴を埋める。

それ自体は想定の範囲だ。


ロゼは立ち上がりかけ、ふと足を止めた。


「……30ページ目からの5幕。この3日間で作り上げてみろ」


「え?」


レッスン室の空気が、一度だけ薄くなる。

指示の確認ではない。権限の委譲だった。


「今から手をかけていい。この一幕だけでも、お前の演出で作ってみろ」


アンダルシアの男が、日本の少女に、幕を渡す。

失敗しても、泣いても、責任は現場に残る。


それでも「やってみろ」は、叱咤より重かった。


侑樹の指が、バインダーの端を強く掴む。


ロゼはそれ以上説明しない。

説明する暇があるなら、作れ、という顔だった。


「……はい」


声は小さくても、逃げてはいなかった。


3日後、ロゼが戻ったとき、5幕は誰かの真似ではなく、赤尾侑樹の呼吸で動いていなければならない。


天才たちの舞台の隙間に、裏方の一幕が、

初めて表の責任を負おうとしていた。



「ゆっきー。カフェテラス、みんな行くみたいだから行こ〜」


二乃が演出席に、侑樹を呼びに来た。


稽古が一段落したあとの、風のような誘い。

フラウ・ヴィンドの声は、重い空気を変える様に軽い。


しかし、その席に侑樹はいなかった。


タブレットも、バインダーも残っていない。


「あれ?どこ行ったんだろ。トイレかな?」


近くにいた舞台創造科の生徒に、二乃が声をかける。


「ゆっきー、知らない?」


「先輩なら、学科棟に戻るって言ってましたよ」


短い答え。


カフェテラスの笑い声より先に、

仕事が彼女を連れていったらしい。


二乃は演出席を一度見て、小さく首を傾げた。


みんなの輪に戻る足は軽いままだった。

それでも、空いた椅子の意味だけは、

風の君にも分かっていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……



世界を知る物語である。


第1話 完

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