↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第8章 「黄金宿りし気高き王」
PR
57/86

第8章 「黄金宿りし気高き王」 第7話

静かに、マリナは教えてくれた。


12年前。


自分とリナ、そしてプラナの3人で、よく遊んでいた。


まだ家の格式も、序列も、王という呼び名も、

子どもたちの午後には届いていなかった頃。


公園の砂が靴に入り、笑い声の方が先に走る。


ボール遊びをしていた時、

マリナの投げたボールが、リナの頭を越えた。


「ちゃんと投げてよ〜」


ボールは、道路に出ていた。


リナはそれを追った。


そしてトラックに、リナは轢かれた。


即死だった。


墓石の文字が、急に生々しくなる。


マリナの声は、途中で一度も揺れなかった。

揺れたのは、事実の方だった。


翼は何も言えなかった。


「事故」と呼ぶには近すぎて、「殺した」と呼ぶには、子どもの投げたボールが重すぎた。



「なんで、教えてくれたんです?」


知るべきだったのか、知る資格があったのか。

そのどちらも、まだ整理できていない。


「あの演出家に、親睦を深めてくるように言われたのだろう。 なら、私のことをちゃんと知って欲しかったから」


課題として近づくなら、表面だけでは意味がない。


タピオカも、ぬいぐるみも、リムジンも、

ここまでの道だった。


本当の親睦は、欠けた名前を見せるところから始まる。


マリナは続けた。


「事故からしばらくして、私の中にリナが生まれた」


マリナ自身、「生まれた」という表現が合っているのかどうか分からない。


戻ってきた、残った、棲みついた。

どれも近くて、どれも正確ではなかった。


「え?生まれたって??」


「私の中には、もう1人、リナの人格がある」


風が花を揺らす。


12年前に道路で止まった声が、

今も体内で呼応している、と彼女は言っている。


「えっと……いわゆる、二重人格みたいなやつですか?」


「多分、そんな感じだ」


翼は、一瞬、冗談かと思った。


二重人格なんて——

舞台の役ならとかなら理解できる。人が1人の中に2人いる、というのは、物語でよくある話。


でも、廊下で見たあの雰囲気。

鋭い目が一瞬、幼い丸みに変わった瞬間。


「リナ」と名乗ろうとして、途中で閉じた瞼。


そして何より、

今この瞬間に冗談を言うメリットがある?


それに、冗談を言うようなキャラじゃないはずだ。


墓石に刻まれた名前と、

生きているマリナの中の名前が、重なる。


翼の背中を、冷たいものがゆっくりと降りていった。


突然、マリナが翼に抱きついてきた。


「え?え??」


腕の中の感触が、さっきまでの距離とまるで違う。


完成された王の距離ではない。

子どもが、待っていた相手に飛びつく距離。


「びっくりした??」


明らかに、知っているマリナじゃなかった。

声の高さ、目の丸み、体重の預け方。


演技だと言ってしまえばそれまでなのだが、

あまりにも自然すぎる。


墓前の風が、2人の間をすり抜ける。


抱きついてきた側は、何の罪悪感もなく、

ただ嬉しそうだった。


「やっと、こうやって翼ちゃんと話せるよ」


困惑する翼。

廊下で途切れた名乗りが、ここで完成する。


「ねぇねぇ、これどう思う?自分のお墓を自分が見てるって、めちゃくちゃ変じゃない? あそこに私の骨あるって言われても、実感ないんだよね」


明るすぎる言葉が、白い石面に当たって跳ね返る。


12年前の死も、

この声の中では遠いニュースみたいだ。


「えっと……マリナさん?」


「ううん、違うよ。私はリナ・ゴールドエーカーだよ、翼ちゃん」


名乗る声は、迷っていない。


墓に刻まれた文字と同じ名前を、

生きた口がもう一度置く。


翼の腕の中で、カリスティックの王が笑っている。

いや——


王の中にいる、もう1人が笑っている。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……



世界を知る物語である。


第7話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。