第7章 「銀河に広がる我の夢」 第3話
舞台上でのプラナは、まるでキラキラ輝く星のように輝いていた。
カリスティック序列4位としての実力。
足の運び、視線の送り方、声の届き方
どれもが整っていて、無駄がない。
誰もがその演技に目を奪われていた。
プラナが演じるのは「ズィルバー」。
哪吒の演じる白雪姫の、
実の母親の親友という設定があった。
亡き友の娘を案じ、森の端で言葉を交わす役。
距離は近く、情は深い。
だからこそ、呼吸が合わなければ、
関係が嘘になる。
プラナのセリフに、哪吒が合わせる。
しかし、うまく噛み合わない。
プラナの声は明るく、星のように跳ねる。
哪吒の声は低く、水のように沈む。
同じ空間に立っているのに、温度が違う。
間が半拍ずれ、視線がすれ違い、
手を伸ばすタイミングが微妙に合わない。
「——ストップ」
ロゼの声が落ちる前から、2人は気づいていた。
噛み合っていないことを。
哪吒は歯を食いしばり、プラナは小さく息を吐く。
実力がないわけではない。
どちらも、自分の舞台では頂点近くにいる。
ただ、「親友の娘」と「亡き友の影」が、
まだひとつの物語になっていない。
哪吒自身、自分が出来ていないことは誰よりも分かっていた。
矮星が来た日から、他校との実力の差に、
正直焦りがあった。
かつてのオーディションで負けた、因縁の相手。
マリナ・ゴールドエーカー。
その悔しさと、哪吒自身のプライドが、
今の足枷になっている気がした。
今更、負けたという事実は変わらない。
黄金の輝きの前で折れた刃は、
何年経っても同じ場所に残っている。
「私は……何をやってるんだ……」
控えの隅で、哪吒は小さく呟いた。
鏡に映る自分の顔が、どこか硬い。
ズィルバーのセリフに合わせられなかったのは、
技術不足だけではない。
心が、まだ隣に立つ役を拒んでいる。
「哪吒ちゃん」
声がした。
「……降星プラナ」
プラナが台本を抱え、どの学校の序列も関係ない顔で立っていた。
舞台の上では星のように輝いていた少女が、
今はただの同級生の距離で話しかけてくる。
「一緒にセリフ合わせしよ」
哪吒は一瞬、拒みかけた。
けれど、プラナの目には遠慮がなかった。
同情でも、挑発でもない。ただ「合わせたい」というだけだった。
「哪吒ちゃんってさ、マリナのこと嫌い?」
急にプラナが聞いてきた。
空気が、わずかに張りつめる。
「昔オーディションに負けたって、八重ちゃんから聞いたよ」
「……余計なことを」
哪吒の声は低かった。
八重の名前が出たことで、
隠していたものが表に出た気がする。
嫌い、というより、負けた自分が許せない。
その区別さえ、今の哪吒にはうまく言葉にできなかった。
「お前は確か、幼馴染と言っていたな。ずっと一緒にいるのか? マリナ・ゴールドエーカーと」
哪吒の問いは、真っ直ぐだった。
まだ残っている悔しさを、
相手の関係性に重ねている。
「……うん、一緒だよ。何をするのも一緒だった。それこそ、同じ役のオーディションを受けたこともあるし」
プラナは少し目を細め、
昔を思い出すように答えた。
星を見た夜も、稽古の朝も、勝負の日も、
隣にはいつもあの人がいた。
「まぁ、結果は想像通りだけどね」
笑い方は軽かった。
負けた事実を、もう何度も飲み込み慣れている声音だった。
「悔しくないのか?」
哪吒は、自分の胸の棘をそのまま言葉にした。
「う〜ん?確かに悔しいはあるかな。あの2人にはどうしても勝てないし」
プラナは否定しなかった。
悔しさを消したわけではない。
ただ、そこに止まりはしなかった。
「だからこそ私は、2人を支えられるようになりたい。 そうなるには、私もトップスタァにならなきゃだし」
横に立つために、頂点へ行く。
負けた場所で折れず、別の舞台で並ぶ。
それがプラナの選び方だった。
「それで選んだのが、2.5という世界か?」
「まぁね。2.5なら私、負けない自信しかないから」
プラナの瞳が、少しだけ強く光った。
伝統の頂点では届かなくても、
自分の舞台なら星になれる。
哪吒は、その言葉の温度に、自分との違いを見た。
同じ「負け」を抱えていても、向きが違う。
セリフ合わせの台本が、2人の膝の上で開かれたままになっていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第3話 完




