第7章 「銀河に広がる我の夢」 第2話
「プラナちゃんって、2.5次元俳優さんなんだ」
朝食を食べながら、黎夏が驚いたように言ってきた。
トーストを頰張ったまま、目を丸くしている。
食堂の朝の光が、テーブルの上の味噌汁とサラダを優しく照らしていた。
「今更?」
翠月が呆れたようにいう。
「2.5次元……ってなんだ?」
朱が箸を止めて首を傾げる。
「あなたね……」
朱の発言に、葵が小さくため息をついた。
殺陣は一流でも、こういう話には弱い。
いつものことだった。
「2.5次元というのは、アニメや漫画原作の作品を舞台作品として上演する、一種のジャンルみたいなものです」
結依が丁寧に説明する。
声は穏やかで、誰に対しても同じ高さだった。
「まぁでも、2.5って一般ウケするジャンルかと言われたら微妙なとこだけどね」
プラナがスープを啜りながら、
自分の領域を軽く自嘲する。
「そんなことないですよ。2.5は若い方を中心に根強い人気があるとされていますから」
結依がすぐに補足した。
否定ではなく、事実としての擁護だった。
「にしても、カリスティックで2.5次元舞台の役者さんって珍しいですよね」
翠月が言う。
「確かに、カリスティックは伝統的なものを主軸にしてそうですし」
「アカデミアっぽい」
食堂の会話が、自然とプラナに集まる。
序列と古典と、頂点を競う学校。
その中で、2.5次元の舞台を選んだ少女。
プラナはスプーンを置き、少しだけ空を見た。
「私は私の舞台でトップスタァになりたいと思ったからね。マリナの横に立つには、私もトップにならないといけないから」
その言葉は、軽く聞こえて、軽くはなかった。
約束。
幼い頃交わした、3人の誓い。
叶わないと分かっていても、
横に立つために頂点へ行く。
黎夏は「へえ」と素直に感心し、
朱は「よく分からんけど凄いな」と呟いた。
葵と結依は、プラナの横顔を静かに見ていた。
朝の食堂に、それぞれの学校の文化と、それぞれの夢が、同じテーブルの上で混ざり合っていた。
歴代エーデルの写真の前に、プラナはいた。
廊下の明かりが額縁のガラスに落ち、
名前と称号が静かに浮かぶ。
百合々咲の誇りが、1枚ずつ、
時間の順に並んでいる場所。
その中の1枚。
フィーア・ウィナー。
過ぎ去りし流星たちの1
人。
プラナの憧れの存在でもあった。
カリスティックの序列も、まだ何も知らなかった頃。
舞台も、女優も、何も知らなかった幼い自分に、
あの人が与えてくれた衝撃は、今でも忘れない。
ドレスの裾。視線の高さ。
舞台の上で大地を踏むような立ち方。
写真の中のフィーアは、微笑んでいるようで、
微笑んではいなかった。
完璧であろうとしない強さが、
額縁の奥からこちらを見ている。
プラナは腕を組んだまま、
その1枚だけを長く見ていた。
カリスティックの王の隣に立つ自分と、
かつての「地の君」が、ガラス越しに重なる。
憧れは、超えたい対象にもなる。
それでも最初の衝撃は、
今も胸の奥で熱を残していた。
廊下を人が通り過ぎる。
プラナは写真から目を離さなかった。
過ぎ去りし流星は、ここでもまだ、
後輩の足を止めさせる力を持っていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第2話 完




