第7章 「銀河に広がる我の夢」 第1話
「一緒にトップスタァになる」
小さい頃、親友2人と約束した。
今でも1日とて忘れたことはない。
それが叶わない夢だとしても。
あの子の分まで、私は舞台で生きると決めたんだ。
夜の百合々咲の寮の屋上で、プラナは星を見ていた。
それが、降星プラナの、百合々咲に来てからの日課になっていた。
都心部から少し離れていることもあり、
星が綺麗に見える。
風が冷たく、コンクリートの手すりは夜気を含んで冷たい。
それでも彼女は、毎晩のようにここへ上がってくる。
小さい頃、よく3人で見ていた。
公園の芝生に寝転び、指で星を追い、
どれが一番明るいかで喧嘩した。
「あれが一番だ」「ちがう、こっち」——そんな会話が、今も耳の奥に残っている。
あの日に戻れるなら戻りたいと、何度思ったことか。
プラナは手すりに肘をつき、夜空を見上げた。
星は、昔と同じ場所にある。
欠けているのは、隣にいた“あの子”の体温だけだった。
カリスティックでは、星を見る暇などなかった。
序列と実力と、次の舞台。
ここでは、夜の屋上に1人で立てる。
それが、少しだけ救いだった。
「一緒に、トップスタァになる」
風に溶けるような声で、もう一度呟く。
叶わないと分かっている約束を、
それでも胸の奥に抱えたまま、
プラナは今夜も星を数えていた。
「やっぱりここにいた」
屋上の扉が開き、マリナの声が夜風に乗った。
プラナは手すりから顔を上げる。
「マナ……」
「プラナは本当に星が好きだな」
マリナが隣に立つ。
カリスティックの制服のまま、
腕を組んで空を見る。
赤い瞳に、遠い星の光が小さく映る。
「うん、昔よく3人で見てたから」
「……そうね」
短い沈黙が落ちる。
プラナの「3人」に、マリナは何かを思い出したような間を置いた。
問い詰めはしない。ただ、隣にいる。
プラナが急に振り返った。
「カリスティックのみんな、今頃何してるかな?」
「さぁ。りんねと錫音に生徒会自体は任せてあるから、特に心配はしてないけど」
マリナの口調はいつものように冷静だった。
それでも「任せてある」という言葉には、わずかな信頼が混じっている。
「明日香先輩、遊びに来てたらどうする??」
プラナが悪戯っぽく目を細める。
「その時は、りんねからSOSの連絡を必ず送るように言ってある」
「用意周到ね」
プラナが小さく笑う。
マリナは否定も肯定もしなかった。
ただ、夜空の一点を見つめ続けた。
「そろそろ出してあげたら?不満爆発しちゃうかもよ」
プラナの声は軽かった。
でも、その目はマリナの横顔を、きちんと見ている。
「……かもな」
マリナが目を閉じ、深く深呼吸をした。
夜風が屋上を横切り、2人の間の空気を一度入れ替える。
握っていた手が、わずかに緩む。
肩の力が抜け、呼吸の深さが変わる。
そして再び目を開けると——
「プラナ〜あれ、なんてお星さま??」
声の温度が、さっきまでと違っていた。
赤い瞳の鋭さが柔らぎ、口元が子供のように緩む。
カリスティックの「王」ではなく、
夜空を指差す少女の声。
プラナは慣れたように、小さく息を吐いた。
「あれはね〜」
星は同じ場所にある。
隣に立つ人も、同じ人のはずだった。
けれど、呼び方ひとつで、夜の質感が変わる。
プラナは指差された星を見上げ、
静かに答える準備をした。
屋上に、もう1人のマリナが立っていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第1話 完




