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SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第5章 「目指すは新たな黎明期」
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第5章 「目指すは新たな黎明期」 第3話

二乃はダンスの自主練で、夜遅くまで残っていた。


レッスン室の鏡に映る自分の姿は、

汗でぐしょぐしょだった。


体は重いのに、頭の中はまだリズムで回っている。

このまま家に帰るのも、ちょっと面倒に思えた。


「侑樹の部屋に泊まろ」


そう決めて、寮住みの侑樹の部屋に転がり込んだ。


侑樹は何も言わずにドアを開け、

部屋着まで貸してくれた。


「汗やばいからお風呂行ってきな」


二乃は礼を言い、寮の大浴場へ向かった。


湯船に浸かると、今までの疲れがスゥーと溶けていくようだった。


熱い湯が肩まで包み込み、

筋肉の強張りがゆっくりとほぐれていく。


しかし、頭の中にあるのは黎夏のことだった。


自分の推しの過去を知ってしまって、

どう向き合えばいいんだろう。


孤児院。

東都大震災。

家族を失った少女が、明るく笑い続けている理由。


二乃は湯船の縁に顎を乗せ、静かに目を閉じた。


推しとして応援してきた存在が、

突然、1人の人間として、重みを持って目の前に現れた気がした。


湯気が立ち上る浴場に、

二乃の小さなため息だけが溶けていった。


「あれ?二乃ちゃんだ!」


顔を上げると、黎夏がいた。


バスタオルも巻かず、裸のまま立っていた。


湯気の向こうに、

白い肌がぼんやりと浮かんでいる。


黄色いショートヘアが湿って額に張りつき、

無防備なその姿は、


ステージ上の眩しいアイドルとは全く違う、

日常の少女そのものだった。



推しの裸……。



一瞬、邪な煩悩が出てきたが、

二乃は首を大きく横に振って振り払った。


(だめだめだめ!推しをそんな目で見ちゃいけない!)


「黎夏ちゃん、今お風呂?」


声が少し上ずったのを、自分でも自覚していた。


「うん、ダンスやってたら汗かいちゃって」


黎夏はあっけらかんと答え、

二乃の横の湯船に入ってきた。


熱い湯が揺れ、2人の間に小さな波が広がる。


推しと一緒のお風呂。

本来なら嬉しいはずなんだけど、

なんかモヤモヤしてる。


さっきまで頭の中でぐるぐるしていた「孤児院」の言葉が、 湯気の中で再び浮かび上がってくる。


黎夏は湯船に深く沈み、

気持ちよさそうに息を吐いた。


「別に気にしないでいいよ?」


「え?」


「孤児院のこと」


黎夏の声は、いつものように明るく自然な口調だった。


二乃は湯船の縁を握りしめ、静かに息を飲んだ。


湯気が2人の間を漂い、

浴場の白い壁をぼんやりと曇らせている。


水音だけが、静かに響いていた。


「私にとっちゃ別に隠すことじゃないし、みんなはあんまり言わない方が良いって言うけどね」


本当は辛い、隠したい出来事かもしれない。

それでも黎夏は、包み隠さず話した。


湯気の立つ浴場で、彼女の声は意外なほど落ち着いていた。


「辛い時こそ笑った方がいいよって、ひなたさんが教えてくれたから」


過ぎ去りし流星たちの1人——

二柳ひなたは、現在D4の振付師として活動している。


確かに、ひなたさんならそう言いそうだった。

自由で、明るく、誰より「楽しむこと」を大切にする人。


「前向きポジティブ、それが黎夏ちゃんだもんね」


二乃が小さく微笑むと、黎夏もにっこりと頷いた。


「やっぱり舞台でもなんでも、楽しんだもん勝ちだよ」


「うん、そうだね!」


やっぱりこの子を推しててよかった、

と二乃は思った。


過去を背負いながらも、明るく前を向く姿勢が、

好きだった。


湯船の水面が、2人の動きで小さく揺れる。


「ところで、二乃ちゃんって1stライブからいるよね??」


「覚えてるの??」


「もちろん!!」


ファンとして、素直に嬉しかった。


推しに自分の存在を覚えてもらえていたという事実が、胸の奥を温かくする。


「まさかあそこにいた人と一緒にお風呂入ってるなんてね〜」


黎夏が笑いながら言った。


「私も推しと入れるなんて……」


二乃が言いかけた時——


「えい!」


「ひゃぁ!?」


黎夏の手が、突然二乃の胸に触れた。


柔らかい感触。

湯船の中で、予期せぬ接触。


「翠月より大きい」


推しに胸触られた!!??


二乃の頭に、再び邪な煩悩が現れた。


顔が一気に熱くなり、

湯気のせいだけでは済まない赤みを帯びる。


黎夏はあっけらかんと笑っているが、

二乃の方は頭の中が真っ白になっていた。


浴場に、小さな水音と、

二乃の慌てた息だけが響いていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……



世界を知る物語である。


第3話 完

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