第5章 「目指すは新たな黎明期」 第4話
その夜、侑樹の部屋で女子会が開催されていた。
寮室に、布団を敷いて3人で囲むように座っている。
カップ麺の湯気が立ち上り、
お菓子の袋が床に散らばっていた。
「ねぇねぇ、あのフェスの時のアンコールとかさ」
黎夏が目を輝かせてD4の話を始めると、
二乃がすぐに乗った。
「あの時の『Starlight party』最高だった!黎夏ちゃんのソロパートで鳥肌立った!」
「わかるわかる!振付師のひなたさんが『もっと跳べ』ってうるさくてさ」
侑樹は苦笑いを浮かべながら、
2人の間に座っていた。
アイドルの話はよく分からないけれど、
2人が楽しそうなのが伝わる。
談笑はしばらく続き、自然と次の話題へ移った。
「でもさ、黎夏ちゃん、台本覚えるの苦手なんだよね」
二乃がぽつりと言うと、
黎夏が大きなあくびをした。
「う〜ん、セリフってすぐ飛ぶんだよね。ダンスは体が覚えてるのに」
「ヒーローごっこには台本がなかったからって言ってたもんね」
侑樹がタブレットを取り出し、
SNOW WHITEの該当ページを開いた。
「じゃあ、一緒にやろうか。二乃がセリフを読んで、黎夏ちゃんが繰り返す。私がタイミングとか動きの確認をする」
「え、いいの?」
「いいよ。どうせ通してやらなきゃいけないし」
二乃もすぐに頷いた。
「私も手伝う!推しの台本覚えをサポートできるなんて、ファン冥利に尽きる!」
3人は布団の上に台本を広げ、
夜遅くまでセリフ合わせを始めた。
黎夏がつまずくたびに、二乃が優しく繰り返し、
侑樹が冷静にポイントを指摘する。
寮の窓の外では、夜の街灯が静かに光っていた。
アイドルと、推しとその友人。
肩書きを超えた、ささやかな夜の時間だった。
翌日の練習開始前、侑樹はロゼの前に立っていた。
演出席の近く。
まだ他の生徒たちが集まっていない静かな時間帯だ。
「シュバルツのセリフをアドリブに変えたいと……」
「はい」
黎夏の演じる小人“シュバルツ”は、
元々自由人で街の人気者という設定だった。
昨夜、一緒にセリフの練習をしていて気づいた。
黎夏はちょっと固い言葉や難しい言葉に引っかかる傾向がある。
そのセリフを、彼女に自由にやらせた方がシュバルツらしい——侑樹はそう考えていた。
「細かいところのセリフはどうする?シュバルツがきっかけで動く場面もあるはずだが」
アドリブにするときっかけが伝わらずに、
舞台全体がグダる危険性だってある。
ロゼは腕を組み、冷たく言い放った。
「アドリブに変えるのはダメだ。プロでも難しいものをお前らには出来ない」
侑樹の意見は、あっさり却下された。
しかし、ロゼはすぐに別の指示を出した。
「東納」
瑠々を呼ぶ。
「はい!」
「シュバルツのセリフ書き直せるか?ニュアンスは変えずに、柊黎夏に近づける雰囲気で」
瑠々は少し考えて、はっきりと答えた。
「やります」
「いつまでに出来そうだ?」
「2日いただけたら」
ロゼは満足したかのように、短く頷いた。
「分かった。今日ここは他の生徒に任せて、執筆に入れ」
瑠々がすぐに頷き、
台本を抱えてレッスン室を出ていく。
侑樹はロゼの横顔を静かに見つめた。
完全なアドリブは認めない。
けれど、役者に合わせて台本を調整する——
それがロゼ・アディンの、妥協のない演出スタイルだった。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第4話 完




