第5章 「目指すは新たな黎明期」 第1話
D4(ディーフォー)——
近年、知らない人はいないほど急成長を遂げたハイスクールアイドルグループ。
昨年開催された日本一のハイスクールアイドルを決める大会「ハイスクールアイドルフェス」におい
て、絶対王者と言われた1.5(アイズ)を抜き、総合優勝を果たした。
まさに新たな伝説を作り上げたグループであった。
そのグループのリーダーを務めるのが——
「うへ〜」
この柊黎夏。
アクターズミュージカルアカデミアの演劇創造コース所属で、D4のリーダー。
ベッドから毛布は落ち、
寝相悪く寝息を立てている。
部屋中にジリジリとアラームが鳴り響くが、
彼女はまだ夢の中。
バタンと扉が勢いよく開く。
「黎夏!!起きろ!!」
同じアカデミアの生徒であり、
D4メンバーの立花翠月が、叩き起こしにきた。
「いつまで寝てるの??」
「みづき〜あと5分や10分〜」
まだ寝ぼけているようだった。
これがD4のリーダーと言って、
誰が信じるのだろうか。
部屋のカーテンから差し込む朝日が、
ぐちゃぐちゃの布団と、
伸びた黎夏の姿を照らし出している。
翠月は腰に手を当て、
呆れ顔で妹分のような黎夏を見下ろしていた。
「いい加減にして。今日は大事な練習があるでしょ」
「うぅ……分かったよ……」
黎夏がようやく顔を上げ、
黄色いショートヘアをぐしゃぐしゃとかきむしる。
ハイスクールアイドルフェスを制した新世代を代表するアイドルのリーダー。
その朝の始まりは、あまりにも普通で、
あまりにも人間らしいものだった。
お昼になっても、黎夏はどこかマイペースだった。
カフェテラスのベンチで、
彼女は日向ぼっこをしながら、
すっかり眠っていた。
黄色いショートヘアが陽の光に透け、
穏やかな寝息が規則正しく上がっている。
腕を枕代わりにして横たわる姿は、
まさに猫そのものだった。
少し離れたテーブルで、翼と二乃、
そして舞台創造科のメンバーたちが見守っていた。
「まるで猫みたいですね」
「にゃー」
瑠々と華が、同時に小さく呟いた。
「ねぇ二乃、黎夏ちゃんってオフな時ってあんな感じなの?」
翼が興味深そうに二乃に聞く。
「分からないけど、ああいうアイドルの方が親しみあって人気出るのよ。黎夏ちゃんの寝顔可愛い〜」
確かに、黎夏の寝顔はまるで子供のように無防備で可愛かった。
口元がわずかに緩み、
時折小さな寝言のような音を漏らしている。
「それはそうと……」
翼が二乃の顔を見ると、
めちゃくちゃニヤけていた。
推しが目の前で、普段ステージでは絶対に見せない寝顔を晒している。
二乃の目は完全にハートになっており、
口元は抑えきれない笑みで歪んでいた。
「欲望丸出しだよ」
「煩悩の塊ね」
舞台創造科の光葉が、呆れたように呟いた。
「実際、演技はあれだけど、ダンスのスキルは飛び抜けて凄いみたい」
侑樹がタブレットを操作しながら、
黎夏のプロフィールや過去のパフォーマンスデータを確認していた。
二乃がそのタブレットの画面をチラリと見て、
急に目の色を変えた。
「何そのデータ!?私にも見せて!!」
「ダメ!これは舞台演出のデータなんだから。舞台創造科じゃないと見れないの」
「ちょっとだけ!いいでしょ?お願い!!先っちょだけでいいから!!」
「変態みたいなこと言わないで!!」
侑樹が慌ててタブレットを胸に抱え込み、
二乃がテーブルを越えて手を伸ばそうとする。
瑠々と華がくすくす笑い、翼は苦笑いを浮かべながら2人を仲裁に入った。
カフェテラスに、穏やかな昼下がりの陽射しと、
軽やかな笑い声が広がっていた。
ハイスクールアイドルのリーダーは、
そんな日常の中で、
無防備に、そして愛らしく眠り続けていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第1話 完




