第4章 「葵花にとどまる朱雀の尾羽」 第7話
殺陣を終えて、八重と朱、葵が息を切らしていた。
レッスン室に木刀を置く音が響き、3人はそれぞれの膝に手をつき、肩で息をしている。
汗が床に落ち、熱を帯びた空気がまだ部屋に残っていた。
「……ふぅ」
八重が小さく息を吐くと、
朱が赤髪をかき上げながら笑った。
「やるじゃん。昨日とは全然違う」
「あなたたちも、本気だった」
葵が静かに頷き、木刀を丁寧に収める。
その時、周囲から足音が近づいてきた。
エーデルのメンバー翼、二乃、砂月、哪吒。
そして矮星たち結依、黎夏、翠月、プラナ、
マリナ。
みんなが自然と集まり、3人を囲むように立った。
「すごい殺陣だったね」
翼が目を輝かせて言う。
「八重ちゃん、なんか雰囲気変わってた」
黎夏が興奮気味に続け、二乃が小さく微笑んだ。
哪吒は腕を組み、静かに頷いただけだった。
砂月は優雅に扇子を開き、「見事な攻防でしたわ」と評する。
朱が汗を拭いながら、八重の方を見た。
「なぁ、八重」
「ん?」
「私たち面白いライバルになれるかもな」
朱の言葉は軽かったが、その瞳には確かな闘志と、わずかな敬意が宿っていた。
八重は少し驚いたように目を見開き、
それから静かに笑った。
「かもね」
2人は同時に手を伸ばし、強く握手を交わした。
乾いた音が、レッスン室に小さく響く。
力と優雅、型と自由。
異なる道を歩んできた者たちが、同じ舞台の上で、
ようやく真正面から認め合った瞬間だった。
「いいな〜私も殺陣やりたかった」
黎夏が床に落ちていた木刀を拾い上げ、
口を尖らせた。
「あんたの役は殺陣しないでしょうが」
翠月が呆れたように言う。
「殺陣ってダンスとかに使えそうじゃん。D4の振り付けに使えそう」
「あのね〜」
黎夏の発言に言い返そうとした翠月が、
途中で諦めて肩を落とした。
「アカデミアってとことん自由なのね」
砂月が優雅に微笑みながら言った。
「学校によって考え方が違えば、通う生徒も自ずと違う考えになる。面白いですよ」
結依が静かに続ける。
その言葉に、周囲の生徒たちが小さく頷いた。
「よし、黎夏ちゃん!私が相手だ!」
プラナが突然そう宣言すると、
木刀をひょいと拾い上げ、黎夏に向かって構えた。
「え、本気!?」
「本気!」
2人はすぐに動き出し、木刀を交え始めた。
それは殺陣というより、
ほとんどチャンバラごっこだった。
黎夏が大げさに「おりゃー!」と叫び、
プラナがそれを嬉しそうに受け流す。
周囲から小さな笑い声が漏れる。
「お前ら」
演出席から、ロゼの低く重たい声が落ちた。
「遊んでねぇで、さっさと配置つけ」
一瞬で空気が引き締まる。
黎夏とプラナが慌てて木刀を置き、
他の生徒たちも素早くそれぞれの位置へ散っていった。
レッスン室に、再び本番を意識した緊張が戻る。
それでも、先ほどの軽い笑い声の余韻が、
どこか優しく残っていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第4章 「葵花にとどまる朱雀の尾羽」完




