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SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第3章 「空白の席は誰が為に」
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第4章 「葵花にとどまる朱雀の尾羽」 第5話

寮の自室で、八重は静かに過去の映像を見つめていた。


画面に映るのは、過ぎ去りし流星たち

第93代エーデルの舞台映像だ。


特に、火野凛と始妹蘭の殺陣シーンを、

何度も繰り返し再生している。


凛の動きは力強く、荒々しく、

しかしどこか自由で開放的だった。


妹蘭の剣は水のように流れ、

優雅でありながら芯が通っている。


八重は映像を止め、目を閉じた。


今日の練習で受けた朱の太刀筋。

葵の流れるような軌道。


それらが、画面の中の2人と、

ところどころ重なって見える。


「……似てる」


小さく呟く。


朱の力強い一刀は、凛の荒々しさを思わせる。


葵の優雅な受け流しは、

妹蘭の流麗さを色濃く映している。


2人の殺陣の根幹には、過ぎ去りし流星たちへの憧れがあった。


火野凛と始妹蘭——その動きが、

彼女たちの基礎になっている。


八重はゆっくりと映像を再生し直した。


幼い頃からチャンバラごっこで刀を振り、

祖父から流派を学び、

そして憧れの存在を追い続けてきた2人。


その積み重ねが、今の双剣を形作っている。


「……そうか」


八重は静かに息を吐き、

画面に映る流星たちの姿を見つめた。


自分もまた、型を忠実に守り、

完璧を目指してきた。


だが、二人は「楽しむこと」と「憧れ」を、

自然に剣に乗せている。


練習で感じた違和感の正体が、

ようやく繋がった気がした。


部屋に、小さなモニターの光だけが灯っている。


数ヶ月前、凛に挑戦する勇気を教えてもらったあの日。


八重は静かにその記憶を思い返していた。


木登りを拒んでいた自分に、凛が投げかけた言葉。


「怖がるなとは言わない。でも、どう向き合うかが大事だ」


あの一言が、型に縛られていた自分の心を、

少しだけ動かした。


改めて、凛を越えたいと八重は思っていた。


「凛さんの残した壁、やっぱ大きいや」


寮の自室で、八重は小さく呟いた。


モニターに映る過去の映像。

力強く、自由で、誰よりも舞台を楽しんでいた火野凛の姿。


その背中は、今もなお高く、遠くに見えた。




夜のゼロタイム。


まもなく閉店時間ではあるが、まだ百合々咲の生徒や地域の人たちがそれぞれの時間を過ごしていた。


柔らかなBGMが店内に流れ、

カウンターの灯りが穏やかに客席を照らしている。


コーヒーの香りと、低い話し声が、

夜の静けさを優しく包み込んでいた。


扉が開いた。


入ってきたのは、

私立探偵の九条高虎くじょう たかとらだった。


その風貌は、いかにもカタギの人間ではなかった。


頬から鼻筋にかけて大きな傷。

鋭い目つきと、革ジャンに包まれた大柄な体躯。


一目で関わってはいけないタイプだった。


カウンターから理央が身を乗り出す。


「高虎?珍しいね。どしたん?」


「ちょっとした休憩だ。アイスコーヒー頼む」


理央が慣れた手つきでアイスコーヒーの準備を始める。


暫くして、理央がグラスをカウンターに置いた。


「あいよ」


「……ミルクと砂糖よこせ」


「お前、その見た目でブラック飲めないのかよ……」


「うるさい」


高虎にミルクと砂糖を出す。


理央は苦笑いを浮かべながら、

高虎の様子をじっと見つめた。


傷だらけの顔に、ミルクを注ぐ大柄な男の姿は、

どこか滑稽で、どこか人間味があった。


「んで、今日はどうしたん?お前が喫茶店入ることなんてそうそうないだろ?」


理央がカウンターに肘をつき、

興味深そうに尋ねた。


高虎は一息つくと、低く静かに答えた。


「最近、至る所で行方不明者が続出しているらしくてな」


「探偵らしいことしてんじゃん」


「行方不明探すのは警察に行けって話だが、警察も手焼いてるらしくてな。アウトローな俺のところに捜査協力してくれときた」


「高虎に頼むって、警察も人手不足なんか?」


理央が苦笑いを浮かべる。


すると、高虎のスマホが静かに鳴った。


通知画面を一瞥した瞬間、

彼は深くため息をついた。


「また呼び出しだ。人使い荒いぜ、全く」


ボヤきながら財布から小銭を取り出し、

カウンターに置いた。


「ごちそうさん。怜人とあの姉妹によろしくな」


「はいはい」


高虎はゼロタイムから出て、

表に停めてあったバイクに跨った。


エンジンが低く唸り、夜の街灯を浴びながら、

彼の大きな背中が闇の中へ走り去っていった。


店内に残されたのは、

溶けかけたアイスコーヒーのグラスと、

わずかに漂う革ジャンの匂いだけだった。


理央はカウンターに肘をついたまま、

静かにその背中を見送った。


ゼロタイムの夜は、

また少しだけ、静かに重くなっていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





世界を知る物語である。


第5話 完

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