第4章 「葵花にとどまる朱雀の尾羽」 第4話
「朱ってどうやって強くなったんだ?」
休憩中の朱に、八重が聞いてきた。
レッスン室の片隅。
汗を拭きながら水を飲んでいた朱が、
赤髪のポニーテールを揺らしながら顔を上げる。
「ん?」
「さっきの殺陣で私は終始押されてたから」
朱は常に自然体でいるから、
そんなことを気にしたことはなかった。
強くなりたいというより、
殺陣や体を動かす事が好きだから。
「う〜ん」
腕を組んで深く考える。
考える朱の顔を、八重はじっと見つめた。
きっと何か深い答えが返ってくるのだろうと、身構えていた。
「うん、分かんね」
ガクッ。
なんか深い言葉が来るのかと身構えていた八重の体勢が崩れた。
「分からないんかい」
「うん。だって刀はじいちゃんが教えてくれたことやってるだけだし」
そんな朱が、なんとなく羨ましく思えた。
きっと自然体でいるそれが彼女の強さの根源にあるものなのかもしれない。
「八重はエー……エー……」
「エーデル」
葵が横から助け舟を出した。
「そうそれだ、エーデル!!」
「八重はエーデルだからそれなりに殺陣は強いんだろ」
葵はため息をついた。
「そういう問題じゃないでしょ」
「どういう事?」
葵が八重の顔を見た。
葵は八重の思っていることが、
なんとなく理解しているみたいだった。
「八重さんは私たち2人との差を感じていて。さっきの朱と刀を交えた事で、何か自分の中でモヤモヤしてるものがあると言った感じでしょうか?」
葵の言葉は、一言一句正解だった。
八重は小さく息を飲み、視線を落とした。
葵は静かに、的確に突いてきた。
「葵、よく分かったね」
八重が少し驚いたように呟くと、
葵は静かに微笑んだ。
「昔から人の考えを感じ取るのは得意ですから」
「子供の時から葵に隠し事何にも出来ないよ」
朱が隣で苦笑いを浮かべる。
「あなたは考えてる事が顔に書いてあるのよ」
葵が八重の横に座ってきた。
レッスン室の片隅に、柔らかい光が差し込んでいる。
汗の匂いと木の床の香りが混じる中、
3人は静かに言葉を交わした。
「私も朱もお祖父様から殺陣を学びました。ただその時はまだ子供でしたから。殺陣やアクションというより、チャンバラごっこみたいな感じでいたけどね」
葵が少し笑いながら自身の幼少期を語ってくれた。
遊びから入って、本格的に刀を持ち、
そして流派を身につけていく。
葵は八重の横顔を見つめた。
「なんか難しく考えなくていいんじゃね?」
2人が朱を見る。
朱は赤髪のポニーテールを軽く揺らし、
ごく自然にそう言った。
「まず、楽しむ!それが一番!」
とてもシンプルな答え。
でも、なんとなく朱の言っていることが正しく聞こえた。
八重は少し目を伏せ、指先を絡めながら小さく呟いた。
「楽しむか……」
「たまには良いこと事言うのね」
「凛さんっぽいだろ?」
朱が得意げに胸を張ると、八重が少し首を傾げた。
「……凛さん?凛さんってもしかして……」
「朱の憧れなんですよ。過ぎ去りし流星たちの火野凛さんが」
葵が静かに補足する。
八重の瞳が、わずかに揺れた。
過ぎ去りし流星たち——。
火野凛。フラウ・フォイヤーとして、
力強く自由な舞台を体現した人物。
「葵は妹蘭さん派だもんな」
「今それ関係ないでしょ」
朱がからかい、葵が呆れたように返す。
姉妹らしい、軽やかでどこか懐かしいやりとりだった。
憧れの存在を、こうして自然に語れる2人。
その姿が、どこか眩しく映った。
そんな姉妹のやりとりを、
ただ見つめる少女がいた。
マリナ・ゴールドエーカー。
レッスン室の少し離れた場所。
壁に背を預け、静かに腕を組み、
その光景を、赤い瞳で静かに見つめていた。
「……思ってない」
ただ一言、そう呟いた。
声は小さく、誰にも届かないほどだった。
けれど、その一言には、
どこか冷たく、どこか孤独な響きが宿っていた。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第4話 完




