↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第3章 「空白の席は誰が為に」
PR
30/34

第4章 「葵花にとどまる朱雀の尾羽」 第2話

フランスのビル群の中に、

一際大きく目立つ超高層ビルがそびえ立っていた。


ガラスと鋼鉄の外壁が陽光を反射し、

パリの空に鋭く輝いている。


その最上階には、かつて「過ぎ去りし流星たち」と呼ばれた天才女優——


元フラウ・ボーデン、フィーア・ウィナーがCEOを務める世界的モデル事務所「SANDROCK」があった。


祖母が立ち上げ、母が急拡大させた事業を、

フィーアが受け継いだ。


しかし、CEOにしてはあまりにも多忙な日々を送っていた。


「社長ってもっとこう、楽な仕事だと思ってたよ……」


社長室で机に突っ伏せながら、

フィーアはぼやいた。


重厚なデスクの上に散らばる契約書とスケジュール帳。


窓の外にはパリの街並みが広がり、

遠くにエッフェル塔のシルエットが見える。


それでも彼女の視線は、デスクの端に置かれた1枚の古い写真に吸い寄せられていた。


過ぎ去りし流星と呼ばれていた時代。

過去の栄光。


百合々咲での日々は、

フィーアにとっても思い出が沢山詰まっていた。


厳しい稽古、仲間たちとの笑い、


そして舞台の上でしか味わえない高揚感——

すべてが今も胸の奥に、温かく残っている。


百合々咲の写真の隣に、もう1枚の写真があった。


可愛らしい女性たちが写っている。


彼女たちが着ていたのは、

可愛らしいメイド服のようなものだった。


その中に、学生時代のフィーアも、

同じく可愛らしいメイド服を着て微笑んでいた。


「店長さんたち、元気にしてるかな……」


フィーアは写真をそっと指でなぞり、

静かに微笑んだ。


パリの喧騒から遠い、あの頃の日常。

アルバイト先での何気ない会話や、

制服のまま笑った時間。


今の彼女にはもう戻れない、

けれど決して忘れられない、大切な記憶だった。


社長室に、柔らかな午後の光が差し込んでいた。



フィーアが思い出にふけっていると、

スマホに着信が入った。


「もしもし?」


電話に出ると——


「よ、フィーア。元気にしてっか?」


電話の向こうにいたのは、過ぎ去りし流星たちの1人


元・フラウ・フォイヤー、火野凛ひの りんだった。


「どうしたの、凛?」


「ん? あぁ、来週末にうちのサーカス団がパリに行くから、時間合えば会えないかなと思ってさ」


凛は世界的に有名なサーカス団

「ヘビーアームズサーカス団」のリングマスターとして活躍していた。


団員として世界各地を転々と移動しながら、

華やかな舞台を繰り広げている。


「あなた今どこにいるの?」


「今?イタリアのミラノ」


凛は軽く答えた。


「スケジュール確認しとく。でも、来週はこっちでもいろんなイベントの打ち合わせ入ったりするから、期待しすぎないでね」


「分かってるって」


本当に分かっているのだろうか?


凛の自由奔放さは、昔のままだった。


フィーアは受話器を耳に当てたまま、

窓の外のパリの街並みを見つめた。


電話の向こうから聞こえる凛の明るい声は、

まるで百合々咲の頃と変わらない、

風のように軽やかだった。


「……分かってるならいいけど」


フィーアは小さく苦笑いを浮かべた。


過ぎ去りし流星たち——

それぞれの道を歩みながらも、

こうして繋がっている時間が、どこか懐かしく、

温かかった。



「あ、そうだ。また6月、日本に戻らないか?」


少し凛の口調が真剣に聞こえた。


「6月?」


「SNOW WHITE 第2部」


凛の一言に、フィーアはドキっとした。


あれの第2部……。


「6月やるの?」


「李梨奈から聞いた」


「分かったわ、それも含めてスケジュール確認してみる」


「おう、じゃぁな」


通話が切れた。


フィーアは少し深呼吸をし、

すぐに内線で秘書を呼び出した。


「6月のスケジュール、全部白紙にして。日本行きのチケット用意しといて」


社長室に、静かな緊張が戻った。


フィーアはスマホを机に置き、

ゆっくりと立ち上がった。


窓の外に広がるパリの街並みは相変わらず華やかだが、彼女の視線はすでに遠い日本の空を捉えていた。


SNOW WHITE——

過ぎ去りし流星たちが完成できなかった、あの舞台。


未完のまま終わった物語が、

今、新たな世代の手で動き出そうとしている。


フィーアはデスクの上の写真を再び見つめた。


百合々咲の頃の自分。

仲間たちと笑った日々。


そして、未完の舞台への、わずかな後悔。


「……今度こそ、見届けてやるわ」


秘書がすぐに返事をし、

フィーアは静かに椅子に座り直した。


多忙なCEOの日常が、

一瞬で書き換わる。


6月の日本。 百合々咲。

そして——SNOW WHITE第2部。


過ぎ去りし流星の1人が、

再び舞台の影に立とうとしていた。




これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





世界を知る物語である。


第2話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。