↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SNOW WHITE INTERLUDE -白雪姫と七つの矮星-  作者: 二ノ宮純
第3章 「空白の席は誰が為に」
PR
26/36

第3章 「空白の席は誰が為に」 第6話

百合々咲の寮の浴場は、まるで高級ホテルのような広さであった。


白い大理石の床と壁が、

柔らかな照明に照らされて優しく輝いている。


広い湯船からは湯気が立ち上り、

静かな水音だけが、夜の静寂を優しく満たしていた。


少し遅い時間であるためか、浴場にいるのは結依ひとりだけだった。


結依は湯船の片隅に浸かり、

熱い湯に肩まで沈めながら、ゆっくりと目を閉じていた。


哪吒の言葉——「流星を越える」——

それが結依の中ですっと響いている。


自分たちが百合々咲に召集されたのも、

流星を越えるためと言われている。


でも、本当に今の状態で越えることなんて出来るのだろうか。


結依は湯船の中で小さく息を吐いた。


湯気が視界をぼやけさせ、

過去の記憶が、静かに浮かび上がってくる。


かつて自分がエーデルとして輝いていた頃。


白羽結依として、フラウ・ヒンメルとして、

学院の頂点に立っていた頃。


あの時は、ただ必死に空を目指していた。

でも、今は違う。


立風館で得た仲間たち、新しい視点、

そして——百合々咲に戻ってきた理由。


「越えられるかな……私たちで」


独り言のように呟いた声は、

湯気の向こうに吸い込まれるように消えた。


湯船の縁に寄りかかり、

結依は天井を見つめた。


ピタピタと足音が近づいてくる。


結依が顔を上げると、バスタオルでたわわな胸元を隠したマリナが立っていた。


「すまない、誰もいないものだと思ってた」


「あ、いえ……」


マリナが湯船にゆっくりと浸かってきた。


その横顔を、結依はチラッと見た。


少し、マリナの眉がピクッと動いた気がした。


「なんだ?」


「あ、ごめんなさい」


しばらくの沈黙が、2人の間に落ちた。


湯気が立ち上る中、

結依はそっと言葉を探した。


「あの、ゴールドエーカーさんは今のSNOW WHITEの現状どう思います?」


マリナがゆっくりと結依を見た。


「やっぱり、レベルの差があって、みんな着いてけてないような気がして……」


マリナは静かに息を吐き、

湯船の中で体を軽く沈めた。


「それもあるかもしれない。

でも、その課題を攻略するのはエーデルをはじめとした百合々咲の生徒。私たちは何も出来ない。

私たちに与えられたものを全力でやるだけ」


「そうですよね……」


結依は小さく頷いた。


湯気の向こうで、2人の視線が一瞬だけ交わった。


自分が元百合々咲だからか、首を突っ込みすぎているというのは自覚していた。


これは今の百合々咲の問題。

今のみんなでなんとかするしか方法はない。


「私そろそろ上がりますね」


結依は湯船から上がり、浴場を出た。


今の百合々咲には結依のいた席はもう無い。

空白だった席はすでに埋まっている。


百合々咲の問題に首を突っ込んでいるのは、

心のどこかでまだあの空白の席を求めているからなのだろうか——そんな気がした。


脱衣所で部屋着に着替えていると、

浴場から声が聞こえてきた。


「マナ、ちょっと格好つけてたでしょ」


「うるさい」


(……え?)



結依は思わず動きを止めた。

浴場から響く話し声。


幼い響きを持つ声。

そして、マリナの少し苛立ったような返事。



浴場にはマリナ1人だけのはずなのに……。






これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。

そして……





世界を知る物語である。



第6話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。