第3章 「空白の席は誰が為に」 第1話
確かに矮星たちの技術は凄まじかった。
しかし、それは圧倒的な差を見せつけられているようだった。
エーデルならまだ食らいつけるかもしれない。
けど、大半は追いつくのに精一杯の生徒ばかりであった。
休憩中に、アンサンブルの子たちの声が聞こえてきた。
「流石にレベル差ありすぎでしょ……」
「エーデルにやっと追いつくぐらいなのに……」
ロゼは演出席から、
静かにその様子を観察していた。
アンサンブルの士気が、
少しずつ下がっているのが見て取れた。
彼は少し目を伏せ、考え込んだ。
新しい風、そしてレベルの高いものに揉まれて成長するのは、別に悪いことではない。
しかし、そのレベルに低い者が合わせろと言うのは酷な話である。
当たり前に技術も経験も足りないのだから。
逆にレベルが高い者が低い者に合わせるのも無理な話だ。
それは自分自身への制約であり、
本来発揮できるはずの実力を大幅に下げてしまう。
「赤尾」
ロゼが隣に座る侑樹に声をかけた。
「お前ならどうやる?」
「どうって……?」
侑樹は目を伏せた。
技術も経験も校風もバラバラ。
それをどうまとめてひとつにすればいいのか——
侑樹には、まだ答えが見えなかった。
二乃が帰り際に周りを少し見渡すと、
結依が1年生たちにアドバイスをしている姿があった。
「このセリフの時はこう動くと良い感じになりますよ」
丁寧な言葉で、1年生たちに教えていた。
二乃の目には、久しぶりの光景を見ているようだった。
結依が百合々咲の生徒と関わりを持っているところを見るのは。
「結依が帰ってきた感あるよね」
二乃の横に、侑樹と光葉が立っていた。
「結依は立風館で力をつけて帰ってきてくれたんだよ」
結依が帰ってきてくれたのは嬉しい。
しかし、結依はもう百合々咲の生徒ではない。
立風館の結依だ。
それが二乃にとって、どこかもどかしかった。
「今の1年って結依ちゃんのこと知らないんだよね」
結依が百合々咲を去ったのは去年のことだった。
今の1年は百合々咲の白羽結依を知らない。
この1年で、結依が遠くに行ってしまったように感じてしまった。
「二乃、お待たせ」
着替え終わった翼が二乃を呼びにきた。
翼の声が聞こえていたのか、
結依が翼たちと目が合った。
結依が軽く会釈した。
翼も会釈を返す。
結依のいた席は、もうこの百合々咲には無い。
空白になった席は既に埋められていたが、
結依の事を知っている人たちからしたら、
どうしてもまだ埋められるものではなかった。
心のどこかでは、まだ結依のいた時の幻影が彷徨っているようだった。
これは、トップスタァを目指す少女たちの物語。
そして……
世界を知る物語である。
第1話 完




