第3話 命の重み
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―どうぞ、お楽しみください
「私の権限にて、お前に脱獄の機会を与え
よう!」
張り詰めていた空気にポッカリ穴が空いた。
贅肉がたわわに実った身体を震わせ、
今にでも弾けてしまいそうな足を曲げると、鉄格子の前にしゃがみ込んだ。
突如巨漢の顔がボヤケ、視界が定まらなくなったことに気が付いた。
…こいつは何を言っているんだ?
唐突な疑問が頭を占めた。
俺らを魔剣士殺しとして、世に公表した張本人が脱獄の機会を与える?
やっぱり…頭がおかしいなクソ―…が。
煮えくり返る腸とは裏腹に、冷たく凍てついてしまった魔力が息を呑む。
「なんで脱獄させるんだ…?」
歯の内側まで黄ばん歯をひけらかし、ニャリと気持ちの悪い笑みを浮かべると、目元だけをゆるませたまま神妙な顔つきで、
「…魔王を殺せ」
と、予想通りの言葉を落とされた。
俺が出来ないと知っての物言いに腹が立つ、
そうだよ、俺は無能なヒーラー…。
巨漢が望んでいたものは、魔王の命をこの世から消し去る事だった。耳を塞ぎ込んでしまいたくなる程の金属を引っ掻くような不快な音が頭に響いた。
感情を悟られないように、
「…用件はそれだけか?」
「その目は了承したということだね…
私の可愛い可哀想なオモチャよ…!」
どいつもこいつも人の話を聞けよ。
半歩近づき、猛獣の様に毛で覆われた手でポケットをまさぐり吸い殻に混じった鍵を出すと、慣れた手付きで回した。
「なら…俺からも用件がある、弟を返せ」
背中に冷たい汗がツゥー、と流れる。
これは、命がけの交渉だ。
俺じゃない、弟の命が掛かっている…。
俺には五つ下の弟がいて、俺とは対象的によく笑い可愛らしい元気の良い弟だ。
だが、弟は王都の一室でコイツの手によって監禁されている。
理由は明白、俺の学校生活の妨げになるからだと男は言った。
当時の俺は泣きながら理由をせがむと、
「レオンギルドはお前を除いて、学生の手練が揃った人類の希望と言っても過言ではない存在だ。
そのため、支障をきたす存在を無くすため監禁したまでだ」
男がそう告げた時…俺は何も出来なかった。ただ絶望に呑まれてむせび泣くことしか許されなかった。
―チャポンッ。と、天井の隙間から濁った水が落ちてきた。
…馬鹿げている。
欲にまみれた汚い大人の手口だ。
弟がそばに居ることで、俺は目の前の憎い人物をいとも簡単に殺せるからだ。
なぜなら、「お前の弟を殺すことは、私の業務が一つ増えるだけのこと。離れていても瞬間感知魔法で首をもぐことなど朝飯前だ。
…この意味が分かるだろう?」
と、挑発的に至極真っ当に脅された。泣き喚く俺を冷ややかなめで見ると、肩をぶつけ部屋から出ていた。あの日の記憶は今でも忘れる事など一切ない。
一人が恋しいように、また水が落ちてきて小さな水溜りへと形を変化させた。
その様子を目で追うと、男は俺に視線を戻した。酷く冷徹で、何を考えているのか分からない目付きだった。
俺は昔から、コイツのこの目が嫌いだ。
一つ息を吐くと、
眉間に手をあて絡まり合った、脂ぎったヒゲで覆われた口を粘つくヨダレと共に重々しく開いた。
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またお会いしまょう!




