第81話:妖精族の少女
ルシュと少し早い昼食をとった後、俺達は特に目的なく街を巡る。
マーテンで生活し始めてからこうやってゆっくり街を巡る機会はほとんど無かった。
いつもならギルドや仕事へ行くための道となっていた街中をこうやって周ってみると、これまでとは違った印象がある。
大通りは装備を整えた冒険者、住民、行商、色々な人が行き来している。
大通りから外れ路地に入ると、そこは住民達の生活の場である事が分かる。
道端を駆ける子供、洗濯物を干している住民、井戸端会議を行っている住民など、ここに住む人たちの生活が身近に感じられた。
仕事の往復だけでは見えていなかった街の顔だ。
ルシュも俺と同じように周囲の様子を眺めながら歩いている。
マーテンの東西に伸びる大通りを通り、俺達は西に移動した。
そしてたどり着いた一軒の店に入る。
「いらっしゃいー、あっ、ヨウヘイとルシュじゃんー」
店主であるゴブリンの女の子が俺達に挨拶する。
俺とルシュは特に示し合わせた訳でもなくピウリの店に向かっていた
。気づいたらここに来ていた、という感じだ。
「こんにちは」
俺達はピウリに挨拶する。
普段から日用品の買い付けで世話になる事も多かったが、今日は何となく訪れた感じだ。
「いらっしゃいッス」
商品を補充している最中の褐色の肌のオーガの店員、フリドーも挨拶してくる。
「フリドーもこんにちは」
ルシュがフリドーに挨拶する。
店内には俺達以外の客は居ない。
「今日は仕事はお休み?」
ピウリが俺達に話しかけてくる。服装で察したのだろう。
「ああ、二人でマーテンを周ってる最中なんだ。
今までこうやってゆっくり街を周った事は無かったからね」
俺の言葉にピウリは納得したようだ。
「そうなんだねー。なるほどー」
俺達は持ち歩くのに邪魔にならない程度に減っていた傷薬を補充がてら購入し、しばらくピウリ達と世間話をした。
こういう時間は久しぶりな気がする。
「じゃあそろそろ行こうかな、ルシュ、良いかな?」
俺の言葉でフリドーの様子を眺めていたルシュが俺の傍に来る。
「まいどありー。そうだ、街を周るなら大通りの南にある広場は立ち寄ってみると良いかもねー。
街の南西側はちょっとだけガラが悪いから注意してねー」
店から出る前にピウリが声を掛けてくる。
「分かった、ありがとう、ピウリ」
俺とルシュはピウリの店を後にして街の散策に戻った。南の広場か、行ってみようか。
***
ピウリの店から南下し、大通りを南に移動する。
マーテンの南口になる門が見え始めた辺りで、目の前に一層大きく開けた空間が広がった。
ピウリが言っていた広場で間違いないだろう。
円状に広がった広場の丁度中央を大通りが走り、東と西に半円ずつ分かれた状態になっている。
広場は左右対称とはなっていないようで、東側は小さな池が三つほど互いに繋がった状態になっていて水場を中心とした印象を受ける。
西側は整然と並んだ樹木と花壇があり、植物を中心とした空間になっていた。
俺達は大通りの東側を歩いていたので、広場も東側から見てみる。
談笑するオークとコボルト、水場で遊ぶ幼いリザードマン、屋台も出ていて焼いた木の実などのお菓子を売っている。
ピウリの情報通りだ。
俺は適当に手ごろな高さの段差に座る。
そこまで歩いていないが、これまでの冒険者生活の疲れからかついつい腰を下ろしたくなってしまった。
俺の様子を見たルシュが話しかけてくる。
「少し広場を見てくる」
「うん、俺は少しここでゆっくりしているよ」
俺の言葉にルシュは頷き、水場の方へ行く。
ルシュは俺が思っていた以上に好奇心旺盛だ。
とは言っても誰と会話する訳でもなく、一人で広場をぐるっと回っている。
そう言えばこれまでやりとりしてきた相手も基本的には俺もその場に居る事が多かった。
人見知りする性格なのかもしれない。
ぼーっとそんな事を考えていると、ふと気が付いた。
眼前に二つの青い瞳があり、目が合った。
「おおっ!?」
俺は立ち上がり少し後ずさろうとしたが、後ろは段差なのでまた座り込む形になる。
こちらを覗き込んでいたのは、青い瞳に緑色の髪をした少女だった。
見た目の年齢はルシュよりは上、16、17辺りだろうか。少し眠そうというか気だるそうにも見える瞳だ。
俺の眼前に顔を持ってきていた少女は少し後ずさる。
動きやすそうな服、腰まであるマント。
冒険者と見て良いだろう。
次に目に入ったのは少女の顔だ。
ショートヘアーかと思ったが後ろで括って腰辺りまで髪を伸ばしている。そ
して先端が尖った耳、白く透き通るような肌。
間違いない、エルフだ。
マーテンにエルフが居ない訳ではないが、ダークエルフの方が多いように思える。
冒険者ギルドで俺がエルフの冒険者を見た記憶はない。
エルフの少女は興味深そうに俺を観察しているように見える。
「な、何か用?」
突然の事に少し動揺しながら俺は尋ねる。
少し間を置いてからエルフの少女が口を開く。
「人族?」
「え、まあ、うん」
質問内容に拍子抜けして答える。
俺の返答を聞いたエルフの少女はふーんと返事する。
そして、
「それじゃあね」
と言って広場を北に出て行った。
呆気にとられながらエルフの少女の後ろ姿を見送る。
来た時と同じくらい唐突に去っていった。
「何だったんだ……」
思わず口から言葉が漏れた。




