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第80話:ルシュと過ごす休日

 ある日の朝、俺は目覚める。


 上半身を起こし、辺りを見渡す。木造の部屋の窓からは朝日が差し込み、朝日に照らされたチリがキラキラと光っている。

 とても爽やかな朝だ。


 俺は両腕を上にあげ、体を伸ばす。


「んー……良く寝た」


 この日は仕事をしない日と決めている、要するに俺達にとっての休日だ。


 横にあるルシュのベッドを見ると、そこにルシュの姿は無い。

 俺より早く起きているようだ。


 俺はベッドから降り、顔を洗うために外に出る。


「おはよう、ヨウヘイ」


 外に出た俺の左手にルシュが居た。


「おはよう、ルシュ」


 先日の内に汲んでおいた水を両手ですくい、顔を洗う。

 冷たい水に一気に目が覚める。

 軽く顔をはたいて水を落とした。


「ルシュは起きるの早いな」


 俺はルシュの方向を見る。ルシュは上半身には俺のトレーナーを着て、下半身にはスカートを履いている。

 庭先に設置したベンチに座って足をパタパタさせていた。


「うん、今日が楽しみだったから」


 ルシュが俺のトレーナーを着ている事には理由がある。

 こちらに持ってきたトレーナーにルシュが興味を示した事があり、貸した事があった。

 その時にルシュがトレーナーをいたく気に入り、ここまで喜んでくれるならという事で俺はルシュに譲ったのだ。

 流石にチノパンやスニーカーは彼女とサイズが合わないので、譲ったのはトレーナーだけになる。

 それ以来ルシュは家にいる時はトレーナーを好んで着ている。


 見慣れてきたとは言え、この世界の服に混ざってトレーナーを着ているルシュというのは少し不思議な光景だと思う事がある。


「ヨウヘイ、今日は私、街をゆっくり周ってみたい」


 ルシュが自分から提案する事は珍しい気がする。

 この休みを楽しみにしていたのだ、彼女の頼みを断る理由は俺には無かった。


「そうしようか、朝食をとったら行こうか」


 俺の発言にルシュが嬉しそうに頷いた。


 ***


 朝食をとった後、俺とルシュは街へ繰り出した。


 俺は今日は冒険者の服ではなく普段着となっている布の服、ルシュもトレーナーから布の服に着替えている。

 ルシュの着ている布の服は、俺とルシュが最初に出会った時に彼女が纏っていた厚手の布の衣をメラニーが服に仕立て上げた物だ。


 家を出て道なりに歩く。


「ルシュはどこか行きたいところはあるか?」


 横に並んで歩いているルシュに俺は尋ねる。


「んー……市場に行きたいな」


 ルシュは俺の方を向いて答える。

 一見無表情にも見えるが、少し楽しそうにしている気がする。

 ルシュの感情が何となく分かるのは、一緒にいる時間がそれなりに長いからだろうか。


「分かった、まずは市場からだ」


 俺とルシュは道を東に進んだ。


 ……市場は多くの住民で賑わっていた。

 ここは俺がテオックと初めてマーテンを訪れた時にも来た場所だ

 。往来する魔族の数は多く、活気に溢れている。

 相変わらず人族である俺は視線を集めるが、既にここで生活している身、もう慣れたものだ。


 最初は落ち着きが無かったルシュもすっかり慣れた様で、視線を特に気にすることなく周囲を見渡している。

 買い物するために市場に来る事はこれまであったが、ここまでゆっくりと散策を行った事は無かった。


 俺も周囲の露店を見渡していると、


「ヨウヘイ、ここっ」


 ルシュが俺の手を引き、右側にある露店に引っ張られていった。


「いらっしゃーい」


 のんびりした表情のオーガの店主が出迎える。

 果物を取り扱っている店で、品物の中にはアステノで栽培しているクレウィもある。

 思いがけない場所で見慣れた果物を見つけ、少し懐かしい気持ちになった。


「美味しそう……」


 ルシュが拳大の赤くて丸い実を見ている。


「お嬢ちゃんエシユの実を見るのは初めてかい?

 南のクィノーレンで採れる果物だよ、甘酸っぱくておいしいよ」


 店主が説明してくれる。一つ1ラント、値段も手ごろだ。


「ヨウヘイ、買っていい?」


「もちろんいいよ」


 俺の返事にルシュは嬉しそうに頷き、エシユの実を二つ購入した。


 果物屋を後にする。

 ルシュはエシユの実の入った袋を持ってご満悦の表情だ。


 俺達は市場にある露店を眺めながら散策を続ける。

 通りを数分ほど進むと、ある露店の前に立った。


「お、にいちゃん今日は仕事じゃないのかい?」


 話しかけてきたのはリザードマンの店主だ。

 ここは俺が最初にマーテンに来た時に魚を買った魚屋だ。

 焼き魚が美味しいので、仕事を終えた後に立ち寄る事が何度かあり、俺とルシュも顔見知りとなっている。


「うん、今日は二人でゆっくり街を散歩しようと思っててね」


「そりゃいい事だ、たまにはゆっくり休まないと体を壊しちまうからな。

 どうだい?今日も活きのいいヤツが入ってきて、今しがた焼いた所さ」


 店の中には焼き魚が串に刺された状態で5匹立てられていた。

 俺は遠慮しようかと思ったが、ルシュが欲しいと言う事で二本購入する事になった。


 ……街中にある広場の一角に俺とルシュは腰を下ろす。

 さっき買ってきたエシユの実と焼き魚を一つずつ分け合った。

 朝食後で俺は食べられるか心配だったが、多少時間が経過していた事もあって問題なく食べられそうだ。


 ルシュは既にお腹が空き始めていたようで、嬉しそうに焼き魚にかぶりつく。

 目を細めて、一口一口を確かめるように食べている。

 活気に満ちたマーテンの中で、俺達だけ少し時間がゆっくり流れている気がした。


 アステノにいた頃も、こういう穏やかな時間があった。

 場所は変わっても、この感覚は変わらないものだなと思う。


 隣でエシユの実を口に運んだルシュが、ふと俺の方を見た。


「美味しいね、ヨウヘイ」

 それだけの言葉だったが、俺は思わず笑った。


「そうだな」


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