第79話:掴みどころのない人物
俺は新しいメイスを呼び出してルシュに渡し、再びイルミニを中心にして立つ。
その後は特に魔獣からの襲撃も無く、静かに時間が過ぎていった。
「それにしても……驚いたわ」
イルミニが唐突に口を開く。
「?」
俺とルシュはイルミニを見る。
「ルシュさんのその力……魔力だけではなかったのね……」
イルミニは手を止めずにそのまま続ける。
「ヨウヘイさんとルシュさん、あなた達はとても不思議……」
俺とルシュは黙って聞いている。彼女は依然作業を続けながら口を開く。
「魔力を行使せずに武器を出すヨウヘイさん、それにルシュさんの身に着けているその魔道具……初めて見るわ」
俺は自分の能力を見られる事については特に意識せずに使っていたが、俺には魔力が全くない事を彼女は知っていた。
それにメラニーに用意してもらったルシュの首飾りの魔道具にも気づいていた。
気付く人は気付くんだな……。
「あの、それは……」
誤魔化すために口を開く。
俺の言葉を遮るようにイルミニが話す。
「あ、ごめんなさい……私は誰かの事情については触れないし、魔道具も鑑定するもの以外には触れるつもりはないの。
つい饒舌になってしまったわ……」
深入りするつもりはないという事か。ホッと胸をなでおろす。
この人はこちらが思っている以上に多くの事を見ている。
ただそれを詮索しない、という人らしい。
ここでイルミニが立ち上がる。
「ありがとう、必要な物は集め終えたわ……帰りましょう」
イルミニの言葉に従い、俺達は彼女の荷物を持ち帰路についた。
***
これまで来た道を引き返す。まだ日は明るく、道を見失う事はなさそうだ。
無言で歩いていると何となく気まずくなってくる感じがする。
「あなた達が依頼を受けてくれて良かったわ」
イルミニが口を開く。気まずい空気を感じとったのだろうか。逆に彼女に気を遣われているのかもしれない。
「あなた達が受けてくれなかったらモアちゃんを連れて行きたかったわ……」
少し笑いながらイルミニが話す。多分冗談だよな……?最初のイメージと違って結構気さくな人だと思った。
「モアさんって戦えるんですか?」
俺はイルミニに質問してみる。
「ええ……彼女は元デュコウ魔王軍の魔法剣士よ」
「ええっ!?魔王軍……!」
予想外の返事に俺は驚いてイルミニの方向に振り返る。彼女の後ろにいるルシュが少し驚いていた。
俺のリアクションで驚かせてしまったようだ。
「ええ……私も元デュコウ魔王軍だったのだけど……私は裏方で、あの子は前線に出る事もあったわ……あの子の腕は良かったわよ」
「そうだったんですね」
ギルドでのニコニコしているモアの顔からは想像できないが、目つき自体は鋭かった気がする。
あの鋭い目つきはそういう事だったのかもしれない。
「とは言っても……4、50年前くらいの話だから、主に行ってたのは魔獣退治や治安維持になるわ……」
イルミニとモアの意外な経歴の話を聞きながら、俺達は歩いて街に戻った。
***
イルミニの店に戻り、荷物を指定された場所に置く。
「今日はありがとう……また依頼するときは宜しくね……」
イルミニに労いの言葉を掛けられる。
「イルミニさんもお疲れさまでした」
「楽しかった」
俺とルシュが返事する。
「報酬はギルドで受け取って……お店にはいつでもいらしてね……」
こうして俺達の初護衛任務は何とか無事終える事ができた。イルミニという人物の事が少し分かった気がする一方で、
依然として掴みどころのない人である事には変わりがなかった。




