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第69話:知っていたが俺の魔力、そしてルシュの魔力

「魔力がない?」


 魔法が使えないから魔力がない……?でも珍しいとは一体……。


「ええ……例え魔法が使えなかったとしても、魔力は多かれ少なかれ持っているのに、それが全く無いのは、初めて見たわ……」


 イルミニは淡々と喋るが、どうやら驚いているようだ。これは嬉しくない才能だ。


「今魔力が無くても、素質は後天的に目覚める事もあるから……」


 慰められた気がする。

 俺に魔法の才能があるとは思っていなかった。

 それは本当だ。ただ、いざゼロだと突きつけられると、話は別だった。


 シャグに全く歯が立たなかった事を思い出す。メラニーが氷の魔法で次々とグアンプを仕留めていた光景も。


 魔法が使えれば、あの時違う選択肢があったかもしれない。


 ……まあ、無いものは無いんだが。


 ちょっとうな垂れていると、イルミニがルシュに向かって話しかける。


「では次はルシュさん、あなたね……」


 こっちが本番だ、俺は気を取り直す。ルシュの素質がどのくらいなのか、竜族だとバレないか。

 自分の時よりも緊張して見守る。


 ……ルシュが水晶に手を伸ばし、触れる。


 程なくして水晶に変化が現れた。中から次第にともしびのように光が湧き上がってくる。

 白、青、赤と色を変え、炎のように揺らめいたり、光の柱のように変化したり、様々な様相を現す。

 その光は水晶の中いっぱいに広がっていた。


「これは……かなり強力な魔力ね……」


 一呼吸置いてからイルミニが続ける。


「炎……いえ……光かしら……とても荒い……不安定な魔力……素質としては申し分ないわ……

 安定させられたら、とてつもなく強力な魔術を使えるかも知れないわ……」


 ここでイルミニが少し考えるような素振りを見せる。


「それにしても、不思議な魔力ね……こんな揺らめきは初めて見たわ……」


 イルミニがルシュを見ている様に見える。


 まさかバレたか……!?


「あ、えと、いやぁ…、ルシュは昔から魔力が強かったみたいで……」


 何の言い訳にもなっていない事が口をついて出る。我ながら最悪の誤魔化しだ。


 イルミニはじっとルシュを見つめた様に見える後、


「これからがとても楽しみな才能……」


 とだけ言った。


 バレてはいなかったのか、それとも気づいた上で何も言わないのか。

 目隠しをして前が見えないはずなのに、この人には何もかも見えているような気がした。


 イルミニはそれ以上ルシュの魔力については語らなかった。


 ***


「今日はとても面白いものを見せてもらったわ……」


 イルミニが話す。


「いえ、俺達も自分の魔力が分かって良かったです」


「次は魔法の話、聞かせて?」


 ルシュがイルミニに話しかける。ああそうだ、すっかり魔力の話で頭から抜けていた。


「そうだったわね……何からお話しようかしら……」

 テーブルの上に三つのカップが並べられた。いずれも違う形をしていて、俺の前に置かれたものはぐにゃぐにゃの形の陶器で、ちょっと持ちにくい。

 中にはお茶が淹れられている。特製の薬草を煎じたものらしく、独特の匂いが鼻をつく。


 ルシュが少し口につけてから何とも言えない表情をしていた。


 一息ついてからイルミニが口を開く。


「魔法については何も知らないと言う事で良いのね……?」


「はい、見た事はありますが、どういったものかは全く……」


 俺の知っている魔法はゲーム等の創作物の中のものだ。

 知識もその程度しかなく、実質無知と言って良いだろう。


「どうやったら魔法が使えるようになる?」


 ルシュがストレートに質問する。最終的に聞きたい事はここなので、丁度よい質問だろう。


「……そうね……さっきも軽く触れた事だけど……」


 一呼吸置いてイルミニが続ける。


「ヨウヘイさんは……今のままでは使う事は出来ないわね……

 もしも魔力が目覚めたら、人族と同じ詠唱魔法や精霊魔法が使えるようになると思う……」


 魔力が全くないという流れから、魔力が目覚めるなんて事はないだろうなあと感じる。


 イルミニはルシュの方向を向き、少し間を置いてから話す。


「ルシュさん、あなたは魔力を安定させて、勉強をしたら詠唱魔法も使えるようになると思う……

 そして、本当に魔人なら魔族と同じ魔法も使えるようになるかも知れない……」


 本当に魔人なら……?


 一瞬どきっとするが、イルミニはそれ以上追及する事はなかった。


「今、詠唱魔法や精霊魔法と言ったけれど、魔法には種類があるの……」


 イルミニはお茶を口につける。俺も続いてお茶に口をつけてみた。

 独特の臭みというか、薬っぽいツンとした味がする。ルシュがあの表情をしたのが理解できた。


「まずは『魔法』……これは魔法全体の事も指すけれど、根源的な魔法……

 ある日突然、何を学ぶ訳でもなく初めから知っていたかの様に自身の魔力を使って行使出来る力……魔族や妖精族が使えるわね……」


 村長の使っていた魔法はこれだろうか。


「次は『詠唱魔法』……自身の中にある魔力を詠唱によって形作る魔法……

 人族が使う魔法は基本的に詠唱魔法ね……魔族も使えるけれど、普通に魔法が使えるからあまり必要とはされないわね……

 詠唱魔法はきちんと勉強しないと使えないわ……魔族の国ではそういう施設は無いけれど……」


「後は『精霊魔法』ね……自分の魔力を媒介に精霊から力を借りて行使する魔法……

 エルフみたいな妖精族が一番得意としている……」


 ここでイルミニが一呼吸置く。


「後は神聖魔法なんかもあるけれど、

 そこは私は良く知らないわ……魔法の基本的な要素はそれくらいかしら……」


「喋り過ぎて疲れた……」


 イルミニがため息をつく。この人なりのペースがあるようだ。


 ***


「今日はありがとうございました」


「ありがとう」


 話を終えて、帰り支度をしながらイルミニに話しかける。イルミニはカップをトレイの上に乗せていた。


「こちらこそ、珍しい物を見せてもらったから……」


 そうそう、とイルミニが何かを取り出す。手のひらに乗せたそれは、小さな透明な石だった。


「今日のお礼よ、気持ちだけど……」


 その石をルシュに手渡す。


「これは何?」


「力を込めるように念じてみて……」


 ルシュが手のひらに乗せた石を見つめると、程なくして石が淡く輝いた。

 ろうそくの火よりも弱いが、暗闇の中だと十分灯りになるくらいの明るさだ。


「おお……」


「うわぁ……」


 俺とルシュが感嘆の声を漏らす。


「光の魔素の結晶を加工した、簡易魔道具よ……

 魔力に反応して光るの、使ってると無くなる消耗品だから注意してね……」


「いいの?」


「ええ、遠慮なく持って行って……」


「イルミニさん、魔法の事だけじゃなくこんな物まで、ありがとうございます」


 俺はイルミニに頭を下げる。それを見てイルミニがふふっと笑う。


「こちらこそどういたしまして、魔道具がご入用ならまた来て……」


 イルミニに見送られながら、俺達はイルミニの魔法店を後にした。

 店を出ると、さっきまでの薄暗さの反動で外の光が眩しく感じた。


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