第60話:最弱の俺と最強竜族少女、冒険者になる
紹介された家から東に10分ほど歩く。
マーテンの中には小さな広場が複数あり、十字路や交差点のような役割を果たしているようだ。
そんな広場の一つに出ると、中央に二階建てで白い木製の少し大きめの建物があり、広場を囲むように建物が立ち並んでいる。
その中には宿や道具屋もあった。
「ヨウヘイ、この建物がギルドみたい」
俺より数メートル前に出たルシュが中央の建物を指さしながら話す。
近づくと、建物の看板に「マーテン冒険者ギルド 東支部」と書かれていた。
***
ギルドに入ると、まずその内装が目に入る。白い外装とは異なり、内部は茶色を基調とした木製のものになっていた。
テーブルが並べられたフロア、正面奥には受付らしきものが、受付の右側には飲食の注文カウンター、フロアの左奥には階段がある。
受付と酒場が併設されているようだ。役所みたいな様相を想像していたので、少し意外だった。
中に居る冒険者達は10人ほど。各々がテーブルを囲んで談笑したり、依頼の貼り紙を眺めていたりしている。
種族も様々でオーク、コボルト、オーガ等、腕に覚えのあるだろう面々だ。
特に、右側の壁に持たれかかった男からはただならない空気が漂っていた。
浅黒い肌に青色の髪、背中には二本の剣を携え腕を組んで目を閉じている。魔人だろうか。
「登録は奥の受付なのかな……?」
ルシュが俺を見て話す。
「行ってみようか」
奥に向かって歩き始めると、談笑していた冒険者達が俺たちに気付き視線を投げかけてくる。
会話が止まった。人族がここに訪れるとは思っていなかった、そんな感じだろうか。
右の壁に持たれかかった男を見ると、男は目を開きちらりとこちらを見て、再び目を閉じる。
鋭い目つきが脳裏に残った。
ルシュも周囲の様子を少し気にしているが、俺の隣に立ちそのまま奥へと歩みを進める。
受付窓口の前に立つ頃には、冒険者達は既に各々のやりたいことに戻っていた。
受付に立っていた女性が声を掛けてくる。
「こんにちわ、お仕事のご依頼でしょうか?」
黒い肌に金色のショートヘアー、少しツリ目気味で気が強そうに見える。
長い耳が特徴的だ。魔人かと思ったがダークエルフだ。街中でも何人かは見ている。
女性も珍しさからか、俺とルシュの様子をまじまじと見ていた。
「いえ、冒険者の登録をお願いしたくて」
意外だったのか、俺の言葉を聞いて女性は少し驚いた表情になる。
「そうでしたか、では奥へどうぞ」
俺とルシュは女性に奥の部屋へと通された。
***
登録は先ほどのダークエルフの女性と、腕っぷしの良さそうなコボルトのおじさんが担当だった。
ダークエルフの女性はモア・リンダール、コボルトのおじさんはヨアキム・ベルマンと名乗った。
手続きは比較的簡単なものだった。過去に犯罪を犯した事はないかの質問、周辺の手配書との見比べ。
幸い人族は珍しいので何かしていればすぐに分かるだろうという事で、軽い照会で済んだ。
ルシュも魔人の少女の犯罪者等はそういるものではないとの事で、こちらもスムーズに進んだ。
それが終わると冒険者として最低限の心構えを説明される。
犯罪をするなとか、揉め事は起こすなとかそういった内容だ。
依頼を受けたければ張り紙か受付で尋ねてくれとの説明もあった。
比較的速やかに進行できた冒険者登録だったが、一つだけ問題があった。
登録時に自分の名前を記入する際、ルシュは自分の名前が書けたが、俺は書く事が出来なかった。
読めるが書けない。これまで書く機会が無かったので当然と言えば当然だが、俺は戸惑った。
ルシュが俺の名前の書き方を教えてくれたので事なきを得たが、少し情けなかった。
モアさん曰く、文字の読み書きが出来ない者は人族も魔族も多く珍しくないらしい。
その場合は受付の方が教えてくれるとの事だった。少なくとも文字を書く事は課題として残った。
ルシュに教えてもらった方が良いかもしれない。
最終的には料金を支払い、冒険者の登録証を手渡される。
金属製のタグのようなもので、模様と文字が彫られていた。
模様はマーテンを示すもの、文字は識別用のIDのようなものらしい。
紛失すると再発行に40ラント必要との事なので、無くさないよう注意しなければならない。
***
登録が終わり、今日は一先ず戻る事にした。
出口に向かおうとすると、冒険者達が傍に寄ってくる。
「お前らも冒険者になるのか、これからよろしくな!」
フレンドリーに話しかけられ、軽い会話を交わす。悪い人達ではなさそうだった。
出口に向かうと、先ほどの魔人の男が口を開いた。
「新たな冒険者か」
その声が聞こえた俺とルシュは立ち止まる。
「冒険者は過酷だ、だが力さえあれば選択肢は増えるだろう」
「……?」
ルシュが不思議そうな顔で男を見ている。先ほど俺達と会話していた冒険者達がざわつく。
「まさかあの男に目を付けられるとは……」
俺は男のただならぬ空気に言葉が出なかった。
「強くなれば、私の様に困難な仕事も多くこなし、報酬を得ることも思いのままだろう」
「バルドーさん今週ガワの退治しかやってませんよぉ」
受付のモアさんがすかさず声を掛ける。
「フッ……そうだったな、依頼には出ていない強力な魔獣の討伐を行っていたからな……」
鋭い瞳を閉じ、男は話を続ける。
「流石バルドーだ、裏でそんな事をしていたなんて」
周囲の冒険者達が再びざわつく。
「だが油断は禁物だ、人族の青年、人族の少女よ、精進する事だな……」
「私は魔人だよ?」
アステノの外では魔人として通しているルシュが、自身の耳を指差して男に話しかける。
男は依然ただならぬ雰囲気を漂わせていた。




