第59話:根を張らねばならぬ
「宿には泊まれないって?」
ピウリの言葉が気になり、俺はピウリに尋ねる。
尋ねられたピウリはつまみの木の実を一つ口に入れてから答える。
「冒険者は利用お断りの宿は結構沢山あるんだよ。
凄く汚されるから嫌がる宿が多いんだよねー」
隣でルシュが不思議そうな表情をしている。
「汚されるって?」
ルシュが質問する。俺もいまいちピンとこない。
「えーと、冒険者って色々な所で仕事を請け負うよね。
泥まみれになったり、魔獣の返り血浴びたりとか。
その状態だと宿が汚れちゃうし、滞在となると毎日そうなっちゃうからねー」
「そういう事か……」
言われてみれば納得だった。
グアンプとの戦いを終えた後の自分の状態を思い出す。
あれで宿に飛び込まれたら宿の主人も堪ったものではないだろう。
「後は、冒険者ってトラブルもつきものだからねー。
面倒ごとを持ち込まれるのを嫌がってるというのもあるねー」
「なるほどなぁ……」
俺も果実酒に口をつける。
酸味と甘みとわずかなアルコールが口の中に広がる。
まだ昼なので酔わない程度に飲む。
「私達、どうしよう」
ルシュが俺を見て話す。
冒険者がいるのに拠点が無いという事はないはずだ。
宿場の宿はアロンやエルカンも泊まっていたんだから、受け入れてくれる宿もあるだろう。
「ピウリ、冒険者を受け入れてくれる宿もあるんだろ?」
俺の言葉にピウリは頷く。
「そうだねー、なんならアタシの知ってる所で良かったら紹介してあげるよー」
ピウリが商売人の顔をした気がした。
***
「おー、これが今日から世話になる部屋かぁ」
「おー」
ピウリの紹介のおかげでスムーズに貸し宿を借りる事が出来た。
マーテンのやや北東部にある家で、ギルドへのアクセスは悪くない。
ピウリは店に戻って行ったので、今は俺とルシュの二人だけだ。
部屋は一戸建てではあるが小屋といった外見で、内装も飾りのない木製のものだ。
簡素なテーブルと椅子が二つ、シーツのないベッドが二つ置かれていて、簡単なキッチンもある。
テオックの倉庫での生活に慣れていたので、これでも十分だった。
一日8ラントでの契約だ。驚くべき安さではあるが、ピウリ曰くこれくらいの金額でなければ駆け出しの生活は苦しいだろうとの事だった。
シーツや生活必需品はピウリが格安で用意してくれるとの事で、すぐ購入する事にした。後で運び入れてくれるらしい。
こういう所は本当にしっかりしていると思う。商売上手なだけでなく、ちゃんと相手の事を考えて動ける人だ。
一息つきたいところだが、まだやるべき事がある。
「じゃあギルドに行って登録してこようか」
「うん」
俺とルシュはギルドに向かった。




