第56話:手のひらに残る、村の温もり
アステノを出て、俺とルシュは街道を西に進んだ。
道中ではアステノでの思い出話をしながら歩いた。
数時間歩き、クステリの森から出る。閉ざされた森から抜けると、地平線の彼方まで見える草原が目の前に広がった。
「おぉ、何度見ても壮観だなぁ」
すっかり森暮らしに慣れてしまったから、この光景には改めて圧倒される。
「広い……!」
ルシュも隣で感嘆の息を漏らす。二人で歩きながら、この光景をしばらく堪能した。
……広い草原にも目が慣れてきた頃、幾つかの建物が視界に入る。
「ルシュ、あそこが宿場だ。今日はあそこで休もう」
「うん、分かった」
***
宿場でチェックインをすると、主人から話しかけられた。
以前のスケルトンの時を覚えていたようで、礼を言われるついでに世間話をした。
部屋に通された後、荷物を下ろして一息つく。
宿場をルシュと見て回り、夕食をとった後、部屋に戻ってそれぞれベッドに腰掛け、今後についての話をした。
「ヨウヘイはこの後どうするの?」
「取り敢えずはマーテンに行くつもりだよ。
旅をするにも、まずはその為の力を付けなきゃいけないからな」
ルシュは俺がこの返答をする事は想定済みだったのだろう。間を開けずに口を開く。
「じゃあ冒険者になるんだよね?」
「そうだな、お金だって必要だし、とにかく自力で生きていける様に、稼げるようにならなきゃな」
冒険者について、俺はそこまでの知識を持っていない。
以前この宿場でスケルトンの集団と戦った時に居たアロンとエルカンは冒険者だったが、それ以上の事は分からなかった。
テオックに尋ねてみたが、テオックも詳しくなかった。
「冒険者について、メラニーから色々教えてもらった」
メラニーは流石と言うべきか、何に対しても詳しい。
……冒険者とは、要するに便利屋だ。
魔獣退治から飲食店の店員まで、依頼された仕事をこなして生計を立てる人達の事を指す。
この仕事を斡旋するのがギルドで、現在多くの国や街に冒険者ギルドがあり、依頼された仕事を冒険者が自らの意思で受領してこなす仕組みになっている。
多くの仕事をこなしたり実力が認められた冒険者に対しては、ギルドが特別に仕事を斡旋するケースもあるらしい。
名乗れば誰でも冒険者になれる訳ではなく、ギルドへの登録と手数料が必要との事だ。
「なるほど、ありがとう、ルシュ。やっぱり冒険者にはならなきゃいけないな」
俺の言葉にルシュは少し照れ臭そうにする。
「私も冒険者頑張るから……!」
両手を胸の前でギュッと握りしめてルシュが話す。
「ルシュが居てくれたら怖いもの無しだよ」
笑いながら言ったが、この言葉の半分以上は本気だった。
ただ俺がルシュにおんぶにだっこの状態になってしまうのは流石にどうかと思う。
出来る事なら俺自身が強くなりたいとも思っている。
一息ついたところで、ルシュが何かに気付いたように荷物の麻袋を開けた。
「どうしたんだ?」
ルシュは麻袋の中から更に小さな麻袋を取り出す。
「落ち着いたら開けなさいってメラニーが」
「村長……」
彼女には本当に感謝の言葉も出てこない。
ルシュは小さな麻袋を開け、中身を取り出す。
「これは……」
まず出てきたのは小さなナイフだった。
俺がテオックと一緒に採集をしていた時にテオックが貸してくれていた物だ。
アステノの生活では半ば相棒だったが、テオックの物なので返却していた。
手に取ると、使い込まれた柄の感触がそのままだった。
採集に出た朝の事、ラズボードに追い回された事、テオックの背中を追いかけた日々が、指先からじわりと蘇ってくる。
「テオック、大切に使わせてもらうよ」
続けてルシュが取り出したのは金貨だった。
「小金貨、5枚だから500ラントある。これはメラニーが入れてくれたみたい」
「大金じゃないか……!」
村長らしいと思った。
餞別の金額まで、駆け出しの俺たちに丁度良い分を考えてくれたのだろう。
多すぎず、少なすぎず。突き放さず、甘やかしすぎず。
この人はいつもそういう人だった。
「ありがとう、テオック、村長」
呟くように言った。部屋には俺とルシュしかいないのに、届いた気がした。




