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第55話:帰る場所を背に

 俺が異世界の人間であると説明してから数日後。


「よし、こんなもんか」


 荷造りを一通り終える。三日分の食料と水、この世界に来た時の服を麻袋に詰め込んだ。


 外に出ると、日が昇り始めてからそこまで経っていない。

 暑くなく寒くもない、さわやかな空気に包まれる。

 絶好の日和だ。


 俺は荷物を背負い、村の入り口に向かった。


 この世界に来てからずっと世話になったアステノとは、今日でお別れになる。

 勿論追い出された訳ではなく、俺自身の意思だ。

 今の生活に不満がある訳じゃない。それでもこの世界の事をもっと知りたくなった。

 前の世界では結局閉ざされた世界しか知らなかった事への後悔もあったかもしれない。

 俺が選ばれた事について、理由があるならそれも知りたいと思った。


 ……この話をテオックにした時、反対された。メラニーとルシュも交えて話をし、俺の気持ちを伝えると、最終的にはテオックも納得してくれた。

 メラニーは最初から俺のやりたいようにやれば良いと後押ししてくれていたので、説得は必要なかった。

 ルシュは少しショックを受けていた様子だったので、そう思わせてしまった事が心苦しかった。


 村の門に近づく。

 門の下に人影があった。


「お、来やがったな」


「テオック!それに村長、ルシュも」


「見送りに来ました、一人で行ってしまうのは私達も寂しいですからね。それに……」


 メラニーの言葉に続いて、ルシュが俺に向かって歩いてくる。


 俺と同じように背中に麻袋を背負い、セミロングの髪は後ろで結われている。

 服装もチュニックと腰に革ベルトと、動きやすいものになっていた。


 俺の目の前に来たルシュが口を開く。


「私も行く」


「えっ!?」


 考えるより先に声が出た。

 ルシュの顔を見る。その目は真剣なものだった。


 俺はメラニーの方を見ると、メラニーは困ったように笑い、


「止めたのだけれど、どうしてもって聞かなくて」


 と言う。

 様子を見るにかなり戦った後のようだ。

 俺がテオックを説得したのと同じ事を、ルシュはメラニーにしたのか。


「私は記憶を思い出したい、世界の事も知りたい。私も連れて行って」


 ルシュは俺の目を見つめながら話す。


 ここまで真剣な様子を見て拒否する事は流石に気が引ける。

 何より、俺一人よりは遥かに心強いのは事実だ。

 あの夜、草むらで並んで空を見上げた時から、もしかしたらルシュもそう思っていたのかもしれない。


「分かった、ルシュ、これからも宜しく」


 俺の言葉を聞いたルシュの表情が緩む。


「うん、ヨウヘイ、宜しく」


 ルシュが俺の隣に立つ。俺達はテオックとメラニーを見た。


 テオックは腕を組んで、どこか誇らしげな顔をしていた。あいつがいなければ、俺はこの村に辿り着く事すら出来なかった。


 メラニーは静かに微笑んでいる。この人には、本当に最初から最後まで助けてもらってばかりだった。


 何か言わなければと思うのに、言葉が出てこない。


「気をつけて行って来いよ」

 テオックが先に口を開いた。いつもの気安い口調なのに、今日だけは少しだけ違って聞こえた。


「疲れたらいつでも帰ってきて良いのよ」

 メラニーの言葉が、胸の奥にすとんと落ちた。


 ここはいつでも帰れる場所だと、この人はそう言ってくれている。


「行ってきます」

 声に出したら、不思議と足が前に踏み出せた。


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