第54話:風と月と、これから
その日の夜。
俺は村の中にある草むらに仰向けに寝転がっていた。
何でもないと思っていた日に、まさか異世界から来た事を説明するという出来事があった。
俺にとっては余りにも衝撃的だったのか、寝付けなかった。
空にある月を見る。
「そういえば、この世界にも月はあるんだな……いや、太陽もあったな」
今日の月は青白い。これまで見た月は俺の世界と同じで黄色だったと思う。
天候か何かの影響だろうか。
魔法がある世界なんだからこれくらい不思議なものではないか。
周囲の民家はまだ明かりの点いている所もあれば、既に消灯している家もある。
そよ風が吹いてくる。夜風がとても気持ち良い。
まだ眠れそうには無かった。
……どれくらい時間が経っただろうか。
「ヨウヘイ」
頭上から声がした。寝そべったまま顔を上に向けると、そこにはルシュが居た。
覗き込むように俺を見つめている。
「ルシュ、どうしたんだ?」
月の光を背に影となった顔が少し見辛いが、ルシュで間違いない。
「ヨウヘイが寝転がってるのが見えたから、気になって来たの」
そう言ってルシュは俺の隣に座る。
「ヨウヘイは何をしていたの?」
「何となく寝付けなくて。ちょっと考え事してたんだよ」
「お昼の事があったから?」
「うーん、どうなんだろう、そうかも知れない」
少しの間の後、ルシュが月を見上げて口を開く。
「ヨウヘイは、元のセカイに帰りたいと思った事、ある?」
「うーん……」
この世界に来た最初は考えた事があった。
ただ俺は元の世界では既に死んでいる身だという事、この世界での生活を送る上で考える余裕が無かった事もあり、この考え自体には既に諦めがついていた気がする。
最近は頭によぎる事もなかった。
「あると言えばあるけど、ここで生きるのに忙しくて考える暇も無かったかな」
「そっか……」
暫くの間、静寂が周囲を包み込む。
(何かこう、使命みたいなものは無いのか?)
テオックの言葉を思い出す。
俺がこの世界に来た時、あの女性に使命やら目的やらの話はされなかった。
でも、もしかしたら俺がこの世界に来た意味があるのかもしれない。
(そうだろう、君にも見て欲しいとワシは思っているよ。
勿論旅は危険も付きまとう、必ずしも美しいものばかりではない、それでも楽しいものだよ)
マーテンでリユードさんから言われた言葉も浮かんでくる。
元の世界でも、俺が知っていた世界は俺の周囲にあるものだけで、後はテレビやインターネットといったメディアで知るものしかなかった。
この世界では……。
「今の世界では、自分の力で世界を知ってみたいかも……」
ルシュが俺を見る。
つい口をついて出てしまった。
ルシュは何も言わず、また空を見上げる。
その横顔は青白い月に照らされていた。
俺とルシュは無言のまま空を見上げていた…
暫くして
「もう遅くなってきたから、そろそろ戻ろうか」
俺の言葉にルシュは頷き、それぞれの家に戻った。




