第53話:異世界から来た男
メラニーの家の中、居間に俺と村長、そしてテオックとルシュがテーブルを囲んで座っている。
テーブルの上にはメラニーが淹れてくれたお茶のカップが置かれていた。
「……と言う訳です」
三人に対して、俺がこの世界の人間ではない事、死んでから奇妙な女性の案内でこの世界に来た事、その際に棍棒を出せる能力を得た事を話した。
この場に村長であるメラニーだけでなくテオックとルシュがいる事については、俺自身が二人に話をしない事はフェアじゃないと思ったからだ。
テオックはこの世界に来て最初に出会い、最も世話になっている男で、ルシュは俺がきっかけで村人達と交流を取る事になり、これまでの事から他人ではないと感じていた。
「……そうですか、分かりました」
神妙な面持ちで俺の話を聞いていた村長が頷く。
テオックとルシュは話の途中から呆気に取られた表情をしていた。
「ごめんな、ルシュ。記憶喪失仲間だって言うのは嘘だったんだ」
俺はルシュに謝る。
少なくともルシュが俺に対して打ち解けてくれていたのは、この要素があったからだと思っていた。
「ううん、ヨウヘイには記憶があって良かった」
ルシュの口調は優しかった。
逆に俺が気遣われてしまった。……ここで気がつく。
ルシュにとって、俺が記憶喪失かどうかなんて大事ではなかったのだ。
「ありがとう、ルシュ」
俺の言葉にルシュが少し俯く。落ち込んでいるのではなく、照れ隠しの様だった。
「イセカイって何だ?どういう事だ?」
テオックが呟く。
「いや、こことは違う世界の事だけど……」
テオックの頭にハテナマークが浮かんでいる事が分かる。
世界という言葉のニュアンスが伝わっていないようだ。
「世界とはデュコウやレインウィリスのような国よりも、大陸よりも大きなものです。
異世界は私達の居る世界とは違う、常識が通じない場所があるの。例えば、魔族が存在しない場所、とか……」
メラニーが補足する。
「そうなのか?お前の居たセカイには魔族はいないのか?」
テオックが俺に尋ねる。メラニーの例えをそのまま受け取ったようだ。
だがその例えは正しい。
「うん、俺の居た世界には文明があるのは人族……人間しかいないよ」
「ほえー…そうなのか……」
よく分かっていなさそうな顔をしているが、一応納得してくれた様だ。
テオックらしい受け止め方だと思った。
「ヨウヘイ、話をしてくださってありがとうございます。
貴方が危険な存在ではないと知る事も出来ました」
メラニーが俺に向かって話す。
「いえ、俺もこれまで黙っていた身なので」
「その棍棒出すのも魔法じゃなかったんだなあ。何か村長の魔法とは違うなとは思ってたんだけど」
「でも棍棒呼び出せるのはかっこいい……!」
しみじみ話すテオックと目を光らせるルシュ。
この二人のこういう所が、俺は嬉しい。
……少しだけ話をした後、メラニーが切り出す。
「ヨウヘイ、貴方が出会ったその女性が何者かは……」
こちらの様子を伺うように尋ねられる。
「すみません、俺にも一体何者かは分かりませんでした」
脳裏に赤い髪のスーツ姿の女性が浮かぶ。
彼女は自分が何者かを名乗らなかった。
ただあんな事が出来るのは只者ではないだろう。
メラニーも少し考える仕草を見せる。
「神様かも知れませんが……精霊の広場に居たとの事なので、精霊様かも知れませんね」
メラニーにもはっきりとは分からないようだ。
「でも精霊様?に選ばれて来たのなら、何かこう、使命みたいなものは無いのか?」
テオックに不意に疑問を投げかけられる。
使命……?
これまで考えた事がなかった。
あの女性の口ぶりから何かをしろという言葉は出てこなかったが……。
俺は黙って考え込む、記憶の糸を手繰り寄せてみるが、やはり何も思いつく所が無い。
この世界には大きな陰謀、大きな悪、みたいなものは見えてこない、何よりも俺自身そんな力は…
「まあ俺はお前が来てくれてから毎日楽しいから、それで良いと思ってるけどな」
考え込んでいた俺を見かねてか、テオックが声を掛けてくれた。
「私達皆がそう思ってます。
ここアステノが貴方の故郷だと思ってください、勿論ルシュも」
柄にも無く、言葉に詰まってしまった。
「貴方が異世界から来た事については、誰にも口外しないようにしましょう。
村人なら知られても大丈夫ですが、言いふらさない様に、特に村の外には絶対にこの話が出ないように」
俺が異世界の人間であるというだけで、それだけでトラブルに巻き込まれる可能性は十分にある。
これまでその点を考えた事はなかった。
俺達三人は頷く。
「でもお前の居たセカイには何があったのか興味があるな、折角だから教えてくれないか?」
ここから暫く、俺の世界の話をする事になった。




