第52話:待っていた答え
思考が完全に停止した。
村長は今、何て言った……?
俺が記憶喪失ではない。何故?どうして?よりにもよってこのタイミングで?
向こうでテオックとルシュが笑い声を上げているのが聞こえる。その音だけが妙に遠く、間延びして聞こえた。
俺の心臓が、うるさいほど鳴っている。
どれくらいの間、黙っていただろう。数秒か、もっと長かったか。
ハッと我に返る。メラニーは俺の方向を見ていた。
その表情は、いつもの彼女のものだった。責めているわけでも、追い詰めようとしているわけでもない。
ただ静かに、俺の返答を待っている。
「無理に答えろと言う訳ではないの」
顔面蒼白としているだろう俺の表情を見て、メラニーは優しく話しかける。
「あなたの事はこれまでの事で信用に足ると思っています、そこは疑っていません。
ですが、私はアステノを預かる村長の身にあります。
あなたには何の問題も無かったとしても、何か事情があり、それが村民を危険に晒す可能性があります」
メラニーの表情は優しいが、声は真剣なものだった。
「私は村長として、村民の安全を守らなければならない立場にあるのです。教えて頂けませんか?貴方の事を」
メラニーは諭すように、優しく、真剣に話す。
……俺は考える。混乱する思考を少しずつ落ち着ける。
何故、ではなくどうするか、の段階に来ているんだ。
村長は確信を持って話している。どちらにせよ言い逃れは出来ないだろう。
そして村長や村人達の人柄は俺も良く知るところだ。テオック、ルシュ、ラピド、アルデリン、アゼロ……この人達を裏切る真似は出来ない。
そう気付いた瞬間、不思議と気持ちが落ち着いた。
「……分かりました。確かに俺は記憶喪失ではありません。すみません、これまで黙っていて」
俺の言葉にメラニーは黙って頷く。
「俺が何であるかは話します。
でもその前に、どうして俺が記憶喪失ではないと思ったのか教えてくれませんか?」
別に徹底して隠していた訳ではなく、なあなあでやってきたのは間違いない。
それでも何を確信して話をしてきたのかは気になった。
俺の言葉にメラニーは頷き、
「そうですね……まず私達の生活に対する理解、物事に対する知識の幅、ムラと言うべきでしょうか。それがとても大きい点です」
なるほど、俺の元の世界での創作物から得た知識はスムーズに理解するが、知らない事は全くの無知になる。
記憶喪失でもここまでちぐはぐに抜け落ちるのはおかしいと思ったのか。
「他には、先日のグアンプの時に、魔法を初めて見た、と言いましたね。ではあなたの棍棒を出すその力は?」
……?
「あっ……!」
俺の棍棒を出す能力は魔法として説明していた。
魔法が初見である事を俺自身が教えてしまっていたのか。
「記憶を失っている事に対する不安感もありませんでしたしね。
どちらかと言うと、知らない事に対して戸惑っている様子でしょうか」
メラニーは更に続ける。
「以前に笑ったのがいつぶりだった等、記憶を失っていないと取れる発言もしていましたね。コンビニ……のご飯とか」
宴の時か、あれも聞かれていたのか……!
これまでの失敗に焦り始める俺を前に、彼女はいつもの優しい微笑を浮かべていた。
この人は最初から全部分かっていて、ずっと待っていたのだ。
「参りました……」




