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第39話:居場所

 陽も落ち宵闇が辺りを包み込む頃、アステノの中央広場では多くの村人が集まっていた。


 地面の上に麻の敷物が敷かれ、広場の周囲を取り囲むように松明が設置される。

 広場の中央には大きな鍋が3つ、そして巨大な木の板が敷かれてその上でラズボードの解体が行われていた。


 ラズボードの解体は慣れたテオックや村の中でも力のある者達が担当している。

 俺は設営を手伝い、今は調理の補助として薬味をすりつぶして混ぜる等をしていた。

 ルシュは最初は俺達を手伝っていたが、ラズボードの退治と運搬で一番の活躍をしていたので、それ以降は休んでいて良いと言われ、俺の傍に座っている。


 一通りの準備が整った後、村人達は各々の家から酒や保存食を持ち出してきた。

 そして誰が切り出した訳でもなく、宴が始まった。


 ***


 村人達が鍋に入ったラズボードの肉をよそい、火で炙った肉を配る。


 俺もよそわれた肉に口をつけてみる。かなりクセが強い。

 イノシシの肉は臭みがあると聞いた事があるが、まさにこんな味なのかもしれない。

 ただそれでもかなり美味いと感じた。


「ここへ来てすっかり慣れちゃったのかも知れないな……」

 誰に言うでもなく呟く。


 隣ではルシュがゴブリン調合屋夫妻のミックとアゼロの会話を聞いている。

 メラニーもすぐ傍で話を聞いているので、ルシュも何の話かは理解出来ているだろう。

 ルシュはさっきまでラズボードを仕留めた事について皆から質問攻めにされて少々困っていた。

 通訳する俺自身も同様だったが。


 テオック、ラピド、アルデリンが傍に来て酒を勧められる。

 飲みながら談笑し、暫くしてから三人は肩を組んで他の村人のところへ歩いていった。

 完全に酔いが回っているのか、その足取りはふらついている。


 周囲を見渡すと誰しもが楽しそうに笑っている。


 俺は空を見上げた。


 森に囲まれた村の上には、数え切れないくらいの星が輝く空がある。


「前はこんなじゃなかったなぁ……」


 ふと物思いにふける。


「朝起きて、仕事行って帰って寝て……そういやいつもコンビニの飯だったな」


 この世界は俺の今まで生きてきた世界とは全く違う。

 ゲームや漫画の様な剣と魔法の世界だ。

 ただ、その世界の俺は勇者なんかじゃない。

 奇妙な能力を持つだけの一般人で、決して大活躍する主人公なんかじゃない。


 それでも。


「ここまで笑いあったのっていつぶりだったかな」


 危険な事も沢山あったし、きっとこれからもあるだろう。

 それでも今こそが、生きていると感じる。


「……ヘイ、ヨウヘイ」


 呼びかけられている事に気付く。

 その方向を見ると、メラニーが俺を覗き込むように見ていた。


「すみません、少し考え事をしていました」


「いえ、いいのよ。今のあなたの姿勢が少し大変じゃないかと思って声をかけたのだけど、大丈夫そうですね」


 メラニーの目線を追うと、ルシュが俺に寄りかかって眠っている事に気付いた。

 いつの間に、こんなに近くにいたのだろう。


 体重をあずけてくる小さな肩は、驚くほど軽い。

 その肩が、静かに、規則正しく上下している。


 ラズボードを片手で投げ飛ばしたのと同じ子が、今は俺の肩でこんなにも無防備に眠っている。


 その落差が、なんだかおかしくて、そして少し、胸に刺さった。


「今日は大仕事だったものね」

 メラニーが優しい瞳でルシュを見ながら、静かに言った。


「ええ、大樹の水場でラズボードを退治して、運んでくれましたから」


 俺の言葉にメラニーは小さく微笑んだ。


「以前あなた達を襲ったラズボードを退治出来たのはとても喜ばしいわ」


 でも、とメラニーは続ける。


「今回は二人の助けになったから良かったけれど、この森には外部からお客様が来る事もあるから……。

 みだりに竜にはならないように釘を刺したかったのだけれど、お小言は今度にした方が良いわね」


「そうしてもらえると俺も嬉しいです」


 こうして宴の夜が更けていった。


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