表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/36

第33話:頭の上の賢者(?)

 村の中央付近の小川に架かった橋を通りかかった時、川辺の木陰に赤い翼の生えた猫の姿が見えた。


 ロバートじいさんだ。相変わらず緊張感の欠片もなく、腹を天に向けて無防備に寝そべっている。

 その姿に気づいたルシュは、好奇心に弾む足取りで小走りに駆け寄っていった。


 彼女が傍らに腰を下ろしても、ロバートじいさんは薄目を開けることすらなく、泰然自若としたまま微動だにしない。


「ヨウヘイ、この子は何?」

 ルシュが興味津々な様子で尋ねてきた。


「ああ、その猫はロバートって言うんだ、みんな『ロバートじいさん』って呼んでるんだ」


「へぇ~…」


 ルシュはロバートじいさんを覗き込んでいたかと思うと、そっと抱き上げた。


「ふにゃ!?」


 不意に浮遊感を与えられた結果、ルシュに抱き上げられたロバートじいさんがビクっと跳ねる。


「ご、ごめんなさい」


 驚いて腕を解きかけたルシュからロバートじいさんが飛び降りた。

 止めなかったのは、あれくらいで怒る人ではないと分かっていたからだ。


 ロバートじいさんはルシュをじっと見上げてから俺に気付く。


「見慣れないおなごとヨウヘイ……件の竜族の娘はその子の事かの?」


「ああ、そうなんだ。この子はルシュ、今俺が村を案内しているんだよ」


 ロバートじいさんがルシュを見て話しかける。


「ほほう、わしはロバートじゃ、よしなにな」


「ロバートじいさんが宜しくってさ、ルシュ」


「うん、さっきはごめんなさい。私はルシュ、ロバートじいさん宜しく」


 ルシュはしゃがんでロバートじいさんに目線を合わせながら話す。この子はそういう子だ、と思った。


「さっきはごめん、ルシュからも宜しくって」


「うむ、素直なおなごでワシも嬉しいぞ」


 ***


 それからしばらくの間、俺たちは木陰に腰を下ろし、ロバートじいさんと語らって過ごした。


 今度は正式な合意を得たのか、ロバートじいさんはルシュに抱き上げられることを許し、あろうことか彼女の頭の上に陣取って丸まっていた。

 数百年の時を生きる賢者(?)が、幼い少女の頭頂部で寛いでいる光景は、なかなかにシュールなものがある。


 のどかな休憩時間に声をかけてきたのは、少し離れた場所に立つ人物だった。


「そこにいたのですね、ヨウヘイ。ロバートさんも」


 振り返ると、そこには見覚えのある、気品漂う紫色の髪の女性が立っていた。


「ああ、村長。おかえりなさい」


「おかえりじゃの、村長」


 俺とロバートじいさんの声が重なる。

 その様子に、メラニーは慈しむような笑みを浮かべた。


「ただいま戻りました。

 マーテンでの滞在は満喫できたようですね、ヨウヘイ」


 メラニーがゆっくりと木陰へ歩み寄ってくる。

 俺とルシュは立ち上がって彼女を迎えたが、ロバートじいさんだけは器用にルシュの頭の上に乗ったままだ。


「ええ、とても。俺の知らない物事がたくさんあって、楽しかったです」


 一呼吸置き、俺は本題を切り出そうとする。「……それで、この子が……」


 村長の許可なく、独断でルシュを倉庫から連れ出してしまった引け目があり、言葉がわずかにつかえる。

 咎められる覚悟もしていたが…


「ええ、聞き及んでいます。竜族の女の子ですね」


 彼女は、いつもと変わらぬ穏やかな調子で応じた。


 とりあえずルシュを紹介しようと思い、「はい、村長。この子がル……」と言いかけたところで、メラニーがそっと手を挙げて俺を制した。


 俺とルシュ、そして頭上のロバートじいさんが固唾を呑んで見守る中、メラニーはルシュの目の前まで歩み寄る。

 そして、少しだけ腰を屈めて視線を合わせると、静かに、だがはっきりと語りかけた。


「こんにちは。私はメラニー、この村の村長を務めています。

 ……あなたが竜族のルシュね?」


 通訳をしようとルシュの横顔を見た瞬間、俺は息を呑んだ。

 ルシュの瞳が、これまでにないほど大きく見開かれていたからだ。


 ……驚愕。それも、ただの驚きではない。


 ルシュが震える唇を恐る恐る開き、声を漏らす。


「言葉が……話せるの……?」


「ええ。少しだけね」


 そう言って、メラニーはルシュに優しくウインクしてみせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ