第34話:村長が全部持っていった
ルシュとメラニーのやり取りに一瞬呆気に取られたが、その意味するところはすぐに察しがついた。
「村長……まさか、竜族の言葉を話せるんですか?」
俺の問いに、ロバートじいさんも驚愕を隠せない様子でこちらを、そしてメラニーを見やった。
「驚いたのう。メラニー、ぬしにこれほどの特技があったとは……」
「ええ。まさか、ここで役に立つ日が来るとは思わなかったわ」
メラニーは俺とロバートじいさんに視線を送り、余裕のある微笑みを浮かべた。
……この人の底知れなさが、さらに深まった気がした。
メラニーも木陰に加わり、四人での対話が始まる。
俺は先ほど言いかけていた、独断でルシュに接触、更には連れ出したことへの謝罪を口にした。
結果として彼女が友好的だったから良かったものの、一歩間違えれば村全体を未曾有の危機に晒していた。
ただの自己満足かもしれないが、詫びずにはいられなかったのだ。
だが、俺のそんな葛藤をよそに、メラニーはあっさりと応じた。
「いいのよ。結果として今、こうして穏やかにお話しできているのだから。ありがとう、ヨウヘイ」
あまりに潔い許しだった。
ルシュは自分と同じ言葉を話すメラニーに対し、
まだ少し緊張の色を残していた。
対するメラニーの方は、竜族という存在への畏怖など微塵も感じさせない。
「村長、どうして竜族の言葉を話せるんですか?」
率直な疑問を投げかけてみる。
魔族や人族と竜族に交流があったなどという話は、テオックたちからも聞いたことがない。
メラニーは俺の問いに、わずかな沈黙を置いてから答えた。
「昔、いろいろあってね」
それだけを言い残すと、彼女は再び竜族の言葉に切り替え、ルシュへと向き直った。
どうやら、その経緯を詳しく話すつもりはないらしい。
「……そういえば、共同倉庫のことだけど」
メラニーの言葉に、ルシュが反応する。
表情が強張る。やはり屋根を壊してしまったことを、負い目に感じているようだ。
「いいの、怒っているわけじゃないわ。
……今はあそこで寝泊まりしているのでしょう?」
不安そうなルシュに反して、メラニーの声はどこまでも優しかった。
「もし良ければ、これからは私の家で過ごさないかしら?
お客様用のベッドがあるから、ゆっくり休めると思うわよ」
俺は内心で息を呑んだ。
竜族を自分の私邸に招き入れるという、村の命運を左右しかねない判断を
この人はさらりとやってのける。
全く想定していなかった提案に、ルシュは硬直した。
少しの間、俯いて何かを咀嚼するように沈黙していたが、やがて顔を上げ、メラニーをまっすぐに見つめた。
「うん……ありがとう」
メラニーの懐の深さに絆されたのだろう。
ルシュは、固く閉ざしていた蕾がほころぶような、柔らかい表情で答えた。




