第31話:ようこそ
挨拶を終えた後、ルシュはパタパタと自分の服をはたき、入り込んでいた藁を落とし始めた。
身なりを整えると、彼女は共同倉庫から一歩踏み出し、朝の光に包まれた村を一望する。
「もう、みんな起きてるんだね」
俺とテオックの顔を交互に覗き込みながら、ルシュが話しかけてくる。
その瞳には、未知の世界への純粋な興味と、隠しきれない不安が入り混じっていた。
「あー……それは、みんな早起きだからなあ」
咄嗟に、当たり障りのない嘘をつく。
俺がテオックのような機転が利く男なら、もっと気の利いた返しができたかもしれない。
彼はルシュの言葉を直接理解できないため、今は黙って俺たちのやり取りを静かに見守っていた。
そうして三人で言葉を交わしているうちに、遠巻きに様子を伺っていた村人たちが、吸い寄せられるように少しずつ集まってきた。
まだどこか腰が引けている者もいるが、俺たちの親しげな様子を見て、彼女がすぐさま牙を剥くような存在ではないと直感したのだろう。
「お前らすげーな……。どうやってその竜族とそんなに打ち解けたんだ?」
不意に声をかけてきたのはラピドだった。
さっきまでは姿が見えなかったが、騒ぎを聞きつけて駆けつけたらしい。
驚きを隠せない村人たちの顔ぶれを見渡し、テオックが待ってましたとばかりに胸を張る。
「実はな……」
彼は得意げな顔で、昨夜の出来事を語り始めた。
村人たちには、俺がルシュと意思疎通を図れること、そして俺を介して「通訳」が可能であることを含め、順を追って説明した。
「私はルシュ。昨日は驚かせてごめんなさい。……いただいたご飯、とっても美味しかった。ありがとう」
ルシュの言葉を、俺が村の言葉に直して伝える。
その一言が届いた瞬間、村人たちの強張っていた表情が一斉に、春の雪解けのように和らいだ。
……すると。
「怖がって悪かったなあ、よろしくねぇ」
「恐ろしい化け物かと思ってたが、こんなに小さくて可愛い子だったのか」
「竜族ってもっと恐ろしいもんだと思ってたよ」
「あのスープ、俺が作ったんだぜ! 美味かったか?」
そこからは、怒涛の歓迎と質問攻めだった。
それは俺が初めてアステノに辿り着いた時と、全く同じ光景だった。
あの時の戸惑いと、それ以上に温かいものが胸に込み上げた感覚が、今なら手に取るように分かる。
あまりの勢いに目を白黒させているルシュを、初めは微笑ましく眺めていたのだが……。
「待て待て、みんな! 質問は一度に一つずつにしてくれ! 訳すのは俺なんだぞ!」
叫んでも止まらない喧騒。
これを一人で捌き切るのは至難の業だ。
そんな俺の慌てぶりを、隣でニヤニヤと楽しげに眺めているテオックの姿を、俺は一生忘れないだろう。




