第30話:光の中の笑顔
翌日。
まだ地平線から陽が昇り始めたばかりの早朝。
俺はぐーすかといびきをかいていたテオックを叩き起こし、共同倉庫へと向かった。
空は一点の曇りもない快晴で、肌を撫でる空気はこの上なく爽やかだった。
共同倉庫の前には、すでに数人の村人が集まっていた。その中にはアルデリンの姿もある。
「おはよう、テオック、ヨウヘイ」
アルデリンの声は、どことなく不安げに沈んでいた。
倉庫の中にいる「未知の脅威」を前にして、落ち着かないのは彼だけではないだろう。
周囲の村人たちも、一様に硬い表情を浮かべていた。
「ふああ~……よう、アルデリン。お前も早いな……」
テオックが大きく欠伸をしながら、眠たげに応じる。
「テオックは呑気だね。僕は不安で、夜もあんまり眠れなかったんだよ」
俺とテオックは、あの少女が危険な存在ではないと知っている。
だが、何も知らない村人たちにとっては、竜族は恐怖の存在だ。
村人たちの間に漂う重苦しい沈黙を切り裂くように、テオックが唐突に陽気な声を上げた。
「そうか、まあ心配すんな! 俺とヨウヘイがいれば万事解決だからよ!」
持ち前の明るさから来る自信に満ちたその言葉に、村人たちがざわめき立つ。
「おいおい、何か策でもあるのか?」
「お前、また適当なことを言ってるんじゃないだろうな」
疑念の声が飛ぶ中、テオックは不敵な笑みを浮かべて親指を立てた。
「まーまー見てな、俺に任せときな! いくぞ、ヨウヘイ!」
そう言い残し、彼は力強い足取りで歩き始める。
「お前は本当に調子がいいなあ」
呆れ半分にそう返したが、テオックが努めて明るく振る舞ったおかげで、場の緊張感がわずかに和らいだのは確かだ。
こういう時の彼の図太さには、本当に助けられる。
俺たちは村人たちの視線を背に受けながら、共同倉庫へと歩みを進めた。
***
俺たちは共同倉庫の扉の前に立つ。
村人たちは少し離れた場所から、固唾を呑んでこちらの出方を伺っている。
倉庫の中からは、何の物音も聞こえてこない。
「まだ眠ってるか?」
「うーん、どうだろうな」
テオックが壁に耳を当てて中の気配を探る。
眠っているならゆっくり休ませてやりたい気持ちもあったが、昨夜の彼女の心細げな表情を思い出すと、一刻も早く顔を見せてやりたいという思いが勝った。
俺は扉を二回、静かにノックした。
「ルシュ、起きてるか?」
一瞬の静寂。
やがて、扉がゆっくりと内側から開かれた。
「ヨウヘイ、テオック……! 来てくれたんだね」
そこには、弾けるような安堵の表情を浮かべたルシュが立っていた。
少しだけ寝癖がついているのが、年相応の少女らしさを感じさせる。
「おはよう、ルシュ」
「よう、よく眠れたか?」
「うん、おはよう!」
ルシュは満面の笑みで答えた。
昨夜、俺の裾を掴んで震えていた子と同じだとは思えないほど、その表情は朝日を浴びて明るく輝いていた。




