第27話:友達になれると思う
夜は更けていたが、この時間になっても村を包む空気の異質さは消えていなかった。
テオックは手元に置いたエールを少しずつ啜りながら、じりじりと眠気が訪れるのを待っていた。
重苦しい沈黙の中、家の扉が不意にノックされる。
外の静寂は保たれたままだ。
例の竜族が暴れているのであれば、こんな静かなはずがない。
だとすれば、訪ねてきたのは村人の誰かか、あるいはヨウヘイか。
「テオック、いいか?」
ヨウヘイの声だった。
奴も眠れずにいたのか、まあ無理もないことだ。
「おう、どうした。入っていいぜ」
***
共同倉庫から戻ってきた俺が扉を開けると、テオックは椅子に腰を下ろし、手持ち無沙汰にエールを煽っていた。
その様子を見るに、やはり彼も休息を拒まれているようだった。
俺の姿を認めると、テオックは「おう」と短く応じ、ジョッキを軽く掲げてみせた。
だが、その直後。
彼は怪訝そうに眉を寄せ、鼻をすんすんと動かした。
「お前、もしかして……」
テオックが言葉を紡ぎきる前に、俺は家の中へと足を踏み入れた。
そして、俺の背後に控えていたルシュの姿を認めた瞬間、彼の顔色が一変する。
「まさかその娘、竜族か! 連れてきたのかよっ!?」
エールを握ったまま、テオックは椅子ごと転げ落ちそうになり、必死に体勢を立て直した。
「落ち着けテオック、この娘は危険じゃないんだ」
ほぼ間を置かず、テオックは吠えた
「……っつっても、いきなり連れてくる奴があるか!?」
たしかに、予告もなく連れてくればこれほどの衝撃を受けるのは当然だった。
「それは……その、すまん」
テオックの動揺が収まるまで、俺たちはしばらくの時間を費やすことになった。
「お前、たまにいきなりとんでもないことをしでかすよな……」
テオックは半ば呆れ果てたように溜息を吐いた。
魔族にとって恐怖の象徴そのものである竜族を、こうも無造作に連れ込んだ俺の行動は、今さらながら軽率だったと自覚する。
それでも、この少女が危険な怪物だとは、どうしても俺には思えなかったのだ。
テオックは警戒を解かぬまま、横目でルシュの様子を伺っている。
対するルシュは、珍しそうに室内の調度品を見渡したり、時折俺やテオックの顔を伺ったりしていた。
怯えているのか、あるいは単なる好奇心なのか、その表情からは読み取れない。
まずは、ルシュが言葉を交わせる相手であることを分かってもらわなければならない。
俺はルシュに向き直り、語りかけた。
「ルシュ、こいつはテオック、俺の友達だ。
俺はこいつに世話になってる。
君にもきっと良くしてくれるはずだ。
でも、こいつや村の皆は、君のことを怖がっているんだ」
黙って俺を見つめる彼女の瞳を、まっすぐに見返しながら続ける。
「俺は君と皆が友達になれると思ってる。
だから、簡単な挨拶でいい。こいつを安心させてやってほしいんだ」
ルシュの顔に、一瞬だけ不安の影が差した。
だが、彼女は意を決したように、テオックへと顔を向けた。
「私はルシュ。
倉庫の屋根を壊してごめんなさい。
……優しくしてくれて、ありがとう」
……。
テオックは、何とも形容しがたい奇妙な表情を浮かべ、押し黙った。
「……この子は今、なんて言ったんだ?」




