第26話:その出会いは
声が出なかった。
夜空を仰ぎ見る少女の横顔から目が離せなかった。
少女の赤い瞳がこちらを捉える。彼女はゆっくりとこちらに向き直り、口を開いた。
「あなたは?」
夜の静寂を破るには、あまりに柔らかい声だった。
その声で我に返る。
「あ、ああ、俺はヨウヘイ。君は?」
少女から警戒心や敵意は感じない。
ただこちらの様子を伺っているようだ。
「ルシュ」
少女が短く呟く。
「ルシュって言うんだな、宜しく」
一気にまくし立てると警戒される恐れがある。
今はゆっくり話をするのが正解だと思った。
一拍置いてから、少女が小さく頷いた。
黙ってこちらを見ている少女を改めて眺める。
幼い顔立ちで、歳の頃は12、3歳くらいだろうか。
薄緑色に輝く髪はセミロングで少しクセっ毛になっている。
耳の先が少し尖っている事を除けば、どう見ても人間の少女だ。
しかし彼女の上に空いている大穴は、とてもこの少女の体格で出来るような大きさではない。
屋根が相当脆くなっていたとしても、説明がつかない。
視線を戻して服装を見る。
少し厚手の布のような衣を身に纏っている。
そして彼女の周りには空になった木製の器がいくつも転がっている事に気づいた。
「食べ物くれたからお礼を言いたかったんだけど……」
俺の視線に気づいたのだろう、少女は少し黙った後、言葉を続けた。
「誰も近づいてこないから……ありがとう」
奇しくも何もしていない俺が村人の代表者になってしまったが、今それを説明しても意味はないだろう。
素直に受け取っておく。
少女の雰囲気が少し柔らかくなった気がする。
打ち解けたと思うのは自惚れかもしれないが。
「君は竜族、だよな?どうしてこの村に?」
俺の言葉に対して、ルシュは少し伏し目がちになった。
「竜族……多分、そう。ここに来た……分からない、気付いたらここにいたから……」
……
気づいたらここにいた、分からない…それはつまり
「本物の記憶喪失か……」
思わず口から出た。
記憶喪失の異国の旅人と自分を偽り続けてきた俺には、妙に刺さる言葉だった。
静寂だった世界に虫と鳥の鳴き声が戻ってきた。
こんなにも音があるのに、不思議と静かな夜だった。




