第22話:戦いのあとに残るもの
「かんぱーい!」
エルカンの威勢のいい音頭が酒場に響き渡り、俺たちは勝利の祝杯を挙げた。
使い込まれた木製テーブルを五人で囲み、ジョッキを打ち合わせる。
燭台の橙色の炎が、煤けた木の壁を柔らかく照らしている。
昼間は閑散としていたこの酒場も、今は俺たちの声と笑いだけで満ちていた。
ジョッキを傾けると、麦の香りが鼻をくすぐり、喉を伝う温もりが全身にじわりと広がっていく。
筋肉の奥に残る疲労が、少しずつほぐれていくようだった。
「いやー、ひと暴れした後の酒は格別だぜ!」
黄金色のエールを一気に煽り、エルカンが上機嫌に喉を鳴らす。
あれだけの激闘を潜り抜けた直後だというのに、その表情には微塵の疲労も、傷ひとつも見当たらない。
スケルトン集団を撃退した功績として、村からは今晩の宿と明日の朝食、そして今この祝杯の席をすべて無償で提供してもらった。
ギルドを通じた正式な報酬の打診もあったが、俺とテオック、そしてセドが冒険者登録をしていないこともあり、アロンの判断でこうした形での謝礼に落ち着いたのだ。
エルカンがおかわりを片手に立ち上がり、隣のセドの肩を豪快に叩く。
「お前、なかなかやるじゃねえか! 見てて頼もしかったぜ!」
「エルカン、主も、やる」
言葉数こそ少ないが、セドの瞳にはわずかに充足の色が滲んでいる。
寡黙な彼なりに、この勝利の空気を楽しんでいるのだろう。
「修行の旅をしてるんだったね。冒険者になっていないのが、もったいないくらいだよ」
アロンの言葉に、エルカンがさらに勢いづいてセドの肩を何度も叩いた。
「そうだ、俺たちとパーティを組もうぜ!
お前がいれば、どんな奴が相手だって敵じゃねえ!」
「またエルカンの悪い癖が始まったよ」
アロンが呆れたように肩をすくめる。
どうやら、腕の立つ者を見つけると勧誘せずにはいられない、いつもの光景らしい。
俺とテオックはそのやり取りを笑いながら眺めていたが、不意にエルカンがこちらに矛先を変えて近づいてきた。
そして俺たちの間に割り込むように立ち、両腕を回して力強く肩を組んでくる。
「お前らも冒険者じゃないのに、大したもんだ!
あの捻くれたアロンが褒めてたんだぜ!」
「いやいや、捻くれてないよ」
即座にアロンの突っ込みが飛ぶ。
「お前らも冒険者じゃないのに、大したもんだ! それにヨウヘイ、お前……あの鉄の塊はなんだ!?
最初は木の棒だったのに、途中からいきなり変わってたじゃねえか!」
「いや、俺にもよく分からないんだが……」
「分からないって何だよ!
俺はちゃんと見てたぞ、あの一撃でデカブツの頭が割れたんだからな!」
エルカンが興奮冷めやらぬ様子でジョッキを叩きつけるように置く。
「あれは確かに面白い能力だったね」
アロンが静かに口を開いた。
「援護に入った時に気になってたんだ。
木でも鉄でも自在に出せるなら、相手や状況に合わせて使い分けられる。
とても器用な魔法だよ」
アロンの賛辞に
「捻くれもののアロンが褒めるなんてめずらしいもんだ」
とエルカンが茶々を入れる
「いやいや、捻くれてないよ」
即座にアロンの突っ込みが飛ぶ。
仲間としてすごした期間の長い息の合ったコンビだ、と俺は感じた。
「お前らも冒険者になっちまえよ!
俺たちと一緒にパーティを組んで、派手に暴れ回ろうぜ!」
エルカンの視線はテオックに飛ぶ。
テオックはそれを見て苦笑しながら応える。
「有難い申し出だけどなぁ、俺はしがない村人なのよ、そうはいかないぜ」
テオックの言葉につれねぇなーとぼやく。
そして次は期待の眼差しが、今度は俺に向けられる。
「俺もしがない一般人だからなあ。
あんたたちみたいに強ければいいんだけどな」
謙遜というより本音だった。
あの超人的な動きを目の当たりにした後では、そう言わざるを得ない。
エルカンはがっはっはと豪快に笑い飛ばした。
「俺ほどじゃなくても、お前らなら十分強くなれるぜ!」
「エルカン、無理を言っちゃダメだよ。
……でも二人とも、いい戦いぶりだった。
もし気が変わって冒険者になるなら、オイラたちはいつでも歓迎するからさ」
アロンのフォローを、今は素直に心地よく感じた。
エルカンとテオックの笑い声が重なる。
セドが口の端を緩めている。
アロンが呆れ顔のまま、それでも楽しそうにジョッキを傾けていた。
俺はその光景をぼんやりと眺めながら、静かに息を吐いた。
全身を重い疲労が包んでいる。
だがそれ以上に、胸の奥に温かい充足感が宿っていた。
何より、あの窮地の中で「鉄のメイス」を顕現させることができた。
戦いの中で自分自身の能力の新たな可能性を掴んだ、そんな確信が静かに灯っている夜だった。
そのまま五人の談笑は絶えることなく続き、夜が更けるまで飲み明かした。
***
……重い瞼を開けたとき、窓の外にはすでに高く昇った太陽が輝いていた。




