第23話:その棍棒、どこまでいける?
目が覚めたときには、既に正午が目前に迫っていた。
慌ててテオックを揺り起こし、冷めかけた朝食を胃に流し込んで出発の支度を整える。
宿の外へ出ると、そこには既にアロンとセドの姿があった。エルカンはいまだ夢の中だそうで、もう少し経ってから叩き起こす予定らしい。
「昨日はありがとうな、助かったよ」
「こっちこそ、助けてくれてありがとう。またどこかで会ったら、よろしくね」
アロンの爽やかな見送りに背を押され、俺とテオックは宿場町を後にした。
***
「いやー、飲みすぎちまったなあ。まいった、まいった」
テオックが頭を抱えながら呑気にぼやく。
起きる時間は俺の方が早かったとはいえ、似たようなものなので俺は何も言わなかった。
これ以上の遅れは許されない。
アステノに到着する頃には日が暮れてしまう。
宿場の周辺であれば夜道でもさほど危うくはないが、アステノを抱くクステリの森は話が別だ。
夜の森を歩くのは、飢えた魔獣に餌を差し出すようなものだ。
二日酔いの鈍い頭痛をこらえながら、俺たちは足を速めた。
帰路の道中、話題は自然と昨夜の激闘へと移った。
俺は周囲の状況に気を配る余裕もないほど必死だったが、それはテオックも同様だったらしい。
俺の目には彼の方が遥かに手慣れているように見えていたが、
実際には彼も一杯一杯で、アロンが絶妙なフォローで立ち回ってくれていたお陰だったのだと、自嘲気味に語ってくれた。
「そういえば、お前の棍棒を出す魔法って、鉄製も出せたんだな」
「俺も知らなかったんだ。あの土壇場で試しにやってみたら、偶然成功しただけでさ」
まさか、という思いで縋るように念じた一撃だったが、見事に具現化した。
棍棒という形状さえ維持できていれば、素材の制約は思っていたより緩いのかもしれない。
この能力も、あながち捨てたものではないと改めて確信する。
「やっぱりそうか。じゃあ、鉄以外の棍棒も出せるのか?」
テオックの素朴な疑問に、俺も興味を惹かれた。
木と鉄が可能なら、他の材質でも試してみる価値はある。
「そうだな、やってみるか」
歩を進めながら、俺は様々な素材の棍棒をイメージしてみる。
「金の棍棒とか出して売れば、一気に大金持ちになれるんじゃないか!?」
名案を思いついたとばかりにテオックが目を輝かせる。
「新しいのを出せば前のは消えるんだから、詐欺にしかならないだろ……。
まあ、とにかく、来い、棍棒!」
念じてみるが、手の中には何の感触も戻らない。
「ちぇっ、そう上手くはいかないか」
どうやら、何でも呼び出せるわけではないようだ。
その後もいくつかの素材を順に試してみた。
呼び出しに成功したのは、石、土、鋼、銅、青銅、そして銀。
対して失敗したのは、金、水、ダイヤモンドやサファイアといった宝石類。
テオックが期待したミスリルも、俺の記憶にあるステンレスも反応はなかった。
一般的な素材で、なおかつ固形を保てるものなら具現化できるということだろうか。
何にせよ、鉄や鋼の棍棒が扱えるのは大きい。あの大型スケルトンの頭骨を砕けたことが、何よりの証明だ。
そうして試行錯誤を繰り返すうちに、太陽は大きく傾き始めた。
クステリの森の入り口に差し掛かり、アステノの村に辿り着く頃には、辺りはすっかり黄昏色に染まっていた。




